第3話  昨日の僕とは一味違う!

 僕には2つの記憶がある。


 前世、崔梨遙としての記憶。そして、神崎蓮としての昨日までの記憶。

 僕は昨日まではクールに仕事をこなしていた。


 だが、今日からはダメだ。どうしてもファンとして意識してしまう。

イベントの握手会では、レイナと握手をして話しかける男性ファンを睨んでしまう。


 レイナが笑っていると嬉しい。僕以外の男性が近寄るのは不愉快だ。

 ボディーガードの仕事は常につきまとうこと。

 レイナの生活がよくわかる。ファンとしては嬉しい。どうして僕は昨日まで冷静だったのだろう。


 そもそも、レイナのボディーガードをすることになったのは病的なストーカーが現れたからだ。


 執拗なアプローチの後、レイナが振り向かないからと言うことで殺害予告をしている。


 それで僕達の出番になったのだが今日も何事も無い。握手会も無事に終わった。


 イカン!このままではボディーガードの必要がなくなってしまう。


 いつまで続くかわからないボディーガード、今のうちにお近づきになっておきたい。


 移動の車の中で僕はレイナに話しかけた。


「レイナさん、話しかけてもいいですか? 静かな方がいいですか?」

「え?」


 レイナは少し驚いたようだったが、


「お話ししても構いませんよ」


と言ってくれた。僕は喜んだ。


「実はですねえ」

「はい」


 基本的にレイナは小声だ。そこがかわいい。


「僕、レイナさんの大ファンなんですよ」

「え!?」

「あれ?意外でしたか?」

「はい。意外でした。というより、昨日までそんなことおっしゃってませんでしたよね」

「仕事ですから公私混同を避けていたんですよ」

「それが何故急に?」

「やっぱりお話したいなぁと思いまして」

「そうなんですか、急変ですね」


 レイナが少し笑ってくれた。


「そんなに印象が違いますか?」

「さっきまで、私は神崎さんに嫌われていると思っていましたから」

「え? それはどうもすみませんでした。失礼しました」

「いえいえ」

「無愛想でしたか?」

「はい」


 レイナがまた少し笑ってくれた。


「申し訳ありません。ファンであることを隠そうと思ってムスッとしていたかもしれません」

「いえ、大丈夫ですよ」

「後で写メ撮らせてもらってもいいですか?」

「構いませんけど本当に急変ですね」

「自分に嘘をつくのをやめたんです」

「そうなんですか」

「これからもこんな感じでいいですか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、後でサインももらえますか?」

「いいですよ」

「ありがとうございます」

「本当に私のファンなんですね」

「CDもDVDもブルーレイも全部持っていますよ」

「ありがとうございます」



 僕はますます楽しくなってきた。







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