未完

@aira0817

第2話

僕の朝顔が咲いたのはそこから更に1週間後、他の皆んなの種取りが終わった頃だった。

「ちゃんと毎日水やりしないからよ〜。」

担任の先生が帰りの会で僕に言った。クラスのみんなが笑って、ゆみちゃんも笑っていた。僕は恥ずかしくなって俯きながら、今日あの老人の家にいこうと思った。


しわしわで陽に焼けた大きな手が、優しく土を撫でる様を思い出す。あの優しい手に触れられたら僕が潰してしまった花たちも生き返ってずっと枯れないまま咲き続けるんじゃないかと思った。そんな訳はないけれど、そう信じたかった。


息を切らしながら僕は老人の家のチャイムを鳴らす。

反応がない。チャイムが壊れているようだ。

僕はそっと庭に出てみる。花はやはり潰れたまま、土の上に綺麗に並んでいた。毎日水をやり、愛情込めて育てたものを知らない子どもに一瞬で壊されてしまったおじいさんの気持ちを思い、僕の胸は薔薇の棘に刺されたようにチクチク痛んだ。


痛みを通り越して胸から指先まで冷たくなった僕はその場から動けなかった。

しばらくして、扉の開く音が聞こえる。

おじいさんが、帰ってきた。

僕は、震える指をポケットに押し込み、お腹に力を込めてできるだけ勇敢そうな顔をつくる。いつも早く謝ればお説教も短く済むので、急いでおじいさんの居る家の方へ歩いて行った。

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