聖女から追放されたので、魔王討伐始めます。

仮面の兎

第1幕 色褪せ刻妃の満喫旅

第1話 婚約破棄



「王太子殿下、先程の言葉は本当で?」


「勿論だ。お前のようななどと、婚約できるはずがない」


「婚約破棄だ!」


神聖な教会で王太子から放たれたのは、冷酷な一言だった。




■□■⚔■□■




 私は、由緒正しい伯爵家の四女、ユーリ・べネスト。

1週間前、聖女の称号を女神さまから授かり、各国をめぐる準備をしていた

ところだった。

王太子殿下に教会へ呼び出されたと思ったら、婚約破棄の一言だ。

 確かに、前々から私には陰口があったのは知っている。

だけど、王太子様と婚約するくらいなら、そんなことも当たり前だと思っていた。

 けれど、ありもしない噂がただよい始めてからは、気が気ではなくなった。


 お義姉ねえ様たちにいじめを受けたのはまだしも、お義父とお様までも、私を〝邪神の子〟と呼び、恐れた。

孤独を覚えたのは、そのときからだ。


 その数週間後、聖女の称号を授かったのだから、さぞ私を良く思わなかった者が

多かっただろう。

王太子殿下も、その一人だったようだ。


「婚約破棄ということで、今日から俺の婚約者となる者がいる」


辺りの騎士がざわめく。


「出てこい。アナベル」


その声と同時に、教会の扉が開いた。


「ガルド様っ」


扉から飛び出したのは、赤の派手なドレスを身にまとった、私と同年代くらいの

女性だった。

そう。この国の誰もが名を知る女性。


「公爵家長女の、アナベル・テイラーだ」


「アナベルは女性としての品、そして愛らしさを兼ね揃えている」


「嫌だ、ガルド様ったら。お恥ずかしいですわ。ふふっ」


 王太子に微笑みを浮かべると、首だけを私の方へ向かせ、王太子に見えないよう

口元を歪めニヤリと笑う。


「こんな可愛げの欠片もないと婚約など、始めは悪夢かと疑ったよ」


〝元〟聖女?

 そうか。婚約破棄=聖女の座を奪われるってことね。


「今日を用いて、ユーリ・べネストとガルド・ファレシーの婚約を破棄とする!」


教会中に、王太子の声が響き渡った。


「そうですか………」


「悲しんでも無駄だ。婚約破棄のことは、もう陛下にお伝えしてある」


「大人しく退散した方が、身のためですわよ」


うつむいたままつぶやく私に、冷たい声を浴びせる二人。


「いいえ。そういう心配はないのですが………」


私は一度深呼吸をし、呼吸を整えた。

額に一粒の汗が流れる。冷や汗ではない。興奮のあまりに流れてしまった、熱を帯びた汗。


「わたくし、わたくし………晴れて自由の身と言うことでございますね‼

なんと、こんなにも嬉しいことはありませんっ‼」


「「ん………?」」


想定の反応が違かったのか、そろって首をかしげる二人。


「では、わたくしはこれで。王太子と王太子妃の無事を願っています」


その言葉だけを残し、機嫌良いステップを刻みながら、私は教会を後にした。


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