第7話 新人歓迎イベント?
「よぉーあんちゃんよぉー調子乗ってんじゃねぇぞ」
麦酒で喉を潤していると話しかけられた。
顔を上げるとスキンヘッドのおっさんがいた。何だろう?背中にバトルアックスを背負っているから、冒険者だと思われるが。
「何ですか?」
「はん!ハイオーガ倒したなんて下らない嘘を吐きやがって。馬鹿な新人は教育してやんぜ」
スキンヘッド氏はフーッと鼻息を強く吐く。
えーっと、分からない。
冷静に発言を解釈しよう。どうやら俺がハイオーガを倒したのが嘘だと言っている、そして嘘を付いたことが気に入らない、と。
うむ、一応言葉としては理解出来た。しかし分からない。何で嘘だと思うのだろう?
「あの、特に嘘は付いていませんよ。そもそも貴方は誰ですか?」
「俺は銅級冒険者のドナル様だ」
自分に『様』って……いや、ここは外国だ。文化の違いかもしれない。
とりあえず、疑問は1つ解けた。スキンヘッド氏はドナルさんだ。
なんだか、周りのテーブルに座る冒険者風の人達がくすくすわらいながらこっちを見ている。
「ドナルさんは、その何?」
「何じゃねぇ!ハイオーガの首なんて下らねーパフォーマンスしやがって。てめーみたいなヒョロヒョロ素人が倒せる訳ねぇ!何処かで手に入れた死体を自分が狩ったとか吹いてんだろ!」
引き続き分からん。
俺そんなに痩せてないけど。あれかな、実は着痩せするタイプなのかな?一応名家だもんな、家臣達も「着痩せしますねー服着るとヒョロっすよー」とは言いにくかったのかも。
まぁ着痩せは良いとして、そもそも俺は魔術師だ。筋肉量はあまり強さに関係ない。
「えっと、ハイオーガは居たので倒しましたよ?私は魔術師なので魔術で。何処かで手に入れたと言いますが、肉屋で売ってるものでもないですよね?」
たまたま居たハイオーガを倒すのは簡単だが、新鮮なハイオーガの生首を用意するのは極めて困難だ。それなりに珍しいモンスターなのだから。
「うるせぇ!どこで買ったか何て知らん!」
んー文化の違う国で暮らすのは大変だなぁ。
「いや、では先輩冒険者であるドナルさんはハイオーガの生首手に入るのですか?」
「俺はそんなもん要らん!」
いや、要るとかじゃなくて……
これ、もしかして頭の悪い人か。父も言っていた。世の中には知能が低く会話の嚙み合わない人もいると。そして、そういう人も畑を耕し立派に生きているから見下してはならないと。
父の教えは守らねば。
「ドナル殿、ハイオーガの生首を手に入れるツテは私にはありません。本当に偶然いたので倒しただけです。何の利益もない嘘など付きません。誤解を解いて頂けたら嬉しいです」
俺は努めて穏やかな笑顔を作る。これでどうだろう。
「すかしやがってーー!!!表に出ろっぉぉお!」
くぅー駄目だった。
そして、何やら周囲のテーブルから「ドナルがまた馬鹿やってるぜ」「よし、いっちょ賭けるか?」なんて声が聞こえてくる。
「あの、食事中なのですが」
「ここで斬られてーのかっ!」
背中の斧を抜くドナルさん、いや、それは駄目じゃないかな。
「分かりました。お付き合い致しましょう」
俺は店員さんに「すぐ戻るので片付けないで下さい」と伝え席を立った。店の中で斧を振らせる訳にはいかないから、仕方ない。
肩をいからせて歩くドナルさんに続き店を出る。
店の前の通りで俺はドナルさんと対峙する。
なんか、店の中からわらわらと冒険者風の人々が出てくる。酒を片手にしている者も多い。「ドナル、ちょっと待ってろよ、賭けの準備中だ」とか声がする。
皆楽しそうだ。賭けの準備が進んでいくが、慣れた雰囲気。ふむ。もしかして一種の風習なのかもしれない。新人冒険者と先輩冒険者で戦って、それを賭けのネタにする。そういう文化がヴェステル王国の冒険者にはあるのかも。
つまりは新人歓迎イベントだ。勝とうが負けようが、話のタネになる。
そうなら、なんか嬉しいな。俺のような流れ者をちゃんと見てくれるなんて。
「おう! 新人覚悟は良いか!?」
「私は大丈夫ですが、まだ賭けの準備終わってなさそうですよ?」
「てめー! 余裕ぶっこきやがって!!」
叫ぶドナルさん。腕を回して準備運動をしている。
「ドナルー、もう始めて良いぞー」
ギャラリーから声が上がった。
「覚悟しろっ!!」
バトルアックスを振り上げてドナルさんが迫る。俺は自分に身体強化魔術をかけ、手に軽く防御膜を纏わせる。
振り下ろされるバトルアックス、その刃を右手で掴んで止める。
「なっ!」
驚きの声を上げるドナルさん。だが、こんな闘気も込めてない斧で戦闘訓練を積んだ魔術師を倒せる訳がない。
「動かねえ!! はっ、離しやがれっ!」
ドナルさんは斧を押したり引いたりして必死に動かそうとしている。離せと言われたので手を離す。それと同時に風魔術で軽くドナルさんを押し飛ばす。「うぉーっ」と大袈裟な声で尻もちを付くドナルさん。
俺は氷の槍を5本生み出し、放つ。氷槍はドナル氏を囲む形で地面に突き刺さる。「ひぇーっ!!」と甲高い声を上げるドナルさん。
「これで勝ちでいいですか?」
「おう!新人の勝ちだ!よおし、得したぜ!」
ギャラリーから声が上がる。どうやら今の人は俺に賭けてくれていたようだ。
ドナルさんは立ち上がると、「ちくしょー覚えてろ」と叫んで走り去る。怪我もなさそうだし、良かった。
催しが終わり、ギャラリーが解散していく。
麦酒、気が抜けてるだろうなーと思いながら俺は店に戻った。
◇◇ ◆ ◇◇
「あははひっ、あはは、なにそれ超面白い」
パタパタ足をバタつかせ、腹を抱えて少女は笑う。椅子から落ちそうな勢いだ。銀色の長い髪も動きに合わせて左右に揺れる。
「ブリュエット様、笑い過ぎです」
「だって銅級冒険者が、ドグラス・カッセルに喧嘩を売るって、やばい楽しい。彼って大陸で十指に入る魔術師だよ? ドラゴン相手にイキるトカゲだよね。あー直接見たかった」
ブリュエットと呼ばれた少女は目尻に溜った涙を指先で拭う。
「しかし、ドグラスさん優しいね。怪我もさせずに済ませてあげて。……彼って独身だよね? 10年ぐらい前に一度だけ見たことあるけど、格好良かった記憶がある」
「ええ、24歳で独身です。容姿に関しては、報告には『彫りの深い整った顔立ちだが目は優しそう』とありますね」
「良いなぁ。ちょっと私狙っちゃおうかな。血統最高だし」
「そうですか。頑張って下さい。で、今後はどうします?」
「淡々と返すねぇ。引き続き観察して定期的にレポートを。頃合いを見てスカウトに行くよ。えへ。お洒落しなきゃ」
「了解しました。ブリュエット様の容姿は好みが分かれますが、ドグラス様が
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