因幡の不確定名「うさぎ」
XX
因幡の白兎風物語
昔々、遠い昔。
まだ、今の日本に天孫降臨が起きるよりもずっと昔。
出雲の国に
その神様は数多くの兄弟があり、その中で一番馬鹿にされていました。
「オイ、大己貴! 焼きそばパン買ってこいよ! ダッシュで!」
「分かりました兄さま方」
大己貴命は心優しく、他人を疑うという発想が無い神様で、そのためにDQNの兄神たちに良いようにこき使われていました。
あるとき、兄神たちは因幡の国に
「誰が八上比売を妊娠させるか勝負しようぜ!」
「姫を妊娠させた奴が姫の旦那な!」
そんなDQN丸出しのクソ相談をされる兄神たち。
大己貴命は、そんな彼らに対しても「自分は弟だから兄の手助けをするのは当然だ」と思い、押し付けられた荷物持ちの役目を嫌がらず引き受け、一番後からついていくことになりました。
そんな大己貴命が因幡の国の気多の岬を通りかかったとき。
身体を血だらけにして泣いている一羽のうさぎを見つけました。
そのうさぎは普通のうさぎでした。
……門歯がアーミーナイフのように長く、鋭いことを除けば。
兄神たちはそのうさぎが普通の存在ではないと本能的に判断し、無視して先を急ぎました。
可哀想にうさぎは、泣いていても誰も助けてくれずに無視されたのでした。
しかし、そこに荷物持ちの役回りを押し付けられ、後からついて来ていた大己貴命が通りかかりました。
大己貴命はそのうさぎを見てどうして泣いているのか理由を訊ねました。
そのうさぎはこう言いました。
「私は隠岐の島に住んでいたのですが、一度この国に渡ってみたいと思ったのです」
うさぎは泣きじゃくりながら続けます。
「そして、なんとか泳がないで渡る方法がないか考えていました」
するとそこに大量の鮫がやってきたらしいのです。
「賢い私は彼らを利用しようと考えました」
そこでうさぎはこう持ち掛けたのです
「君たちと私たち。数が多い種族はどっちかな? 確かめたくないかい?」
そんな挑発を受けて、引っ込んでいるほど鮫たちは穏やかではなく。
「数が多い種族は我々だ!」
うさぎの言葉に騙されて、言われるままに数えやすいように、鮫たちは海の上で整列しました。
そして
「私はしめしめと思い、鮫の背中を足場に、向こうの岸にまで渡っていきました」
ですが、最後の最後でうさぎは調子に乗って、とんでもないことを言ってしまったのです。
「ボクは向こう岸に行きたいだけなのに、馬鹿じゃないのー?」
すると鮫たちは激怒して襲い掛かってきました。
うさぎは大変驚きました。
このくらいで怒るなんて。
幼稚過ぎる。
そう思いながら
うさぎは止む無く
その牙で鮫たちの首を全て刎ねました。
「でも、そのせいで私は元の国に帰還する術を失ったのです。私はここに来てみたかっただけで、永住は望んでいないのです」
ここから家に帰還できない。
そのせいで、うさぎは泣いていたのでした。
大己貴命はそれを聞いてそのうさぎに言いました。
「キミは自分のことばかりだね。鮫たちを騙したことを悪いとは思っていないのかい?」
心底悲しそうに。
うさぎはそんな大己貴命の言葉が理解できず
「騙される方が間抜けではないのですか?」
育ちの悪いうさぎは、そんなことを本気で考えていました。
所詮この世は弱肉強食。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。
これが鉄則だろと。
しかし
「そんなわけないだろ」
大己貴命はそれを否定しました。
そしてこう仰ったのです
「何故最初に鮫たちに真正面からお願いするという誠意を持たなかった? 何故最初から騙してやろうと考えたんだ? 自分の利益を最大値にしてやることばかり考えるのは最低だ。少しは他人を満たすことを考えろ。恥を知りなさい」
大己貴命の言葉に、うさぎは衝撃を受けました。
……そうだ。
ボクは鮫たちを見下し、良いように使うことばかり考えていた。
そんなことをすれば、鮫たちの自尊心が破壊され、とても悔しい想いをし
ボクと鮫たちの間に、埋めようのない溝が築かれるだけなのに。
なんてボクは浅はかだったんだろう。
知恵者を気取っていたくせに……!
そう自覚し、うさぎはまた大きく泣きました。
自分で、自分の愚かさに気づいたのです。
大己貴命はそんなうさぎの様子に満足げに微笑みながら
「だったら責任を取りなさい」
そう言って、大己貴命は死したものを蘇生させる方法をうさぎに伝授しました。
それは特殊な薬草を使うもので
斬首された死体の首を繋ぎ、蘇生させるという
グリム童話にも載っている方法でした。
薬草は入手困難でしたが、心を入れ替えたうさぎは必死で鮫たちのために薬草を集めて回り。
自分が首を刎ねてしまった鮫たちを全員蘇生させました。
「騙した上に、クリティカルヒットを決めてしまって申し訳ありませんでした」
うさぎの謝罪は最初は受け入れられませんでしたが、うさぎの気持ちが本物だと分かってもらえたとき。
「まあ、実害無いから別にいいよ」
そんな言葉が返って来て。
うさぎと鮫たちは和解したのでした。
「ありがとうございます大己貴命。貴方が八上比売を射止めると予言致します」
全て解決し、去ろうとした大己貴命の背中に。
うさぎは最後にそんな予言を捧げたのでした。
そして大己貴命が因幡の国に辿り着いたとき。
先に到着していたDQN兄神たちは、全員八上比売の護衛にぶちのめされていて。
遅れてやってきた大己貴命を見た八上比売は
「どうせあなたも私に酷いことをするつもりでしょう!? エロ同人みたいに!」
そう、やさぐれた言葉を投げつけましたが。
しばらく会話すると、大己貴命の心優しさ、誠実さに気づき。
うさぎの予言通り、彼の良さに気づき。
その求婚を受け入れたのでした。
おしまい。
因幡の不確定名「うさぎ」 XX @yamakawauminosuke
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