隣の部屋に悪役令嬢が住んでいる

アジのフライ

プロローグ

 大学の授業を終えて、いつものようにバイトを適当にこなして家に戻った二十二時過ぎ。

 大した荷物も入っていないリュックを床に置き、人をどうにかしてしまうらしいソファにどさりと深く腰掛ける。


 気怠さと共にじわりと広がる眠気を感じつつ、目を瞑る。時計の秒針の音だけが部屋には響いていた。


 入学して二ヶ月。大学生活にも慣れてきた。

 初めての一人暮らしで寂しさを覚えたのも束の間で、この狭っくるしい部屋も馴染んでくると悪くない場所に思えてくる。


 平穏な暮らしを望む俺からすれば、ここまでは上々のスタートといったところだろう。


 唯一の気掛かりがあるとするなら。


『――その汚らわしい手をどけなさい! この無礼者っ!』


 これである。

 俺は声がした方の壁を見つめる。

 金色の髪の毛と綺麗な翡翠色の目をした、いかにも性格の悪そうな顔の女と視線がぶつかる。試しにとネットで拾った画像をプリントして壁に貼ってみたのだが、なんか腹立つな。


『この私を誰だと思っているの? チックン公爵家の令嬢にして、この国の――』


 公爵家の名がすごく弱そうなのは一旦置いておこう。そう。何を隠そう俺の隣の部屋には。


『みすぼらしい姿で私の視界に入らないでもらえるかしら!?」


 どうやら悪役令嬢が住んでいるらしい。

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