世界を救った元勇者の俺、隠居ついでにギルド創ったんだがクセ強問題児ばかり集まるせいで心が安まることを知らない

鬼怒藍落

第1章:問題児ギルド【ヴィルトゥス】

第1話:ギルドマスターやめたい

「――終わりだ!」


 俺は最後に残っていた魔力を込めてそのまま剣を振りきった。致命傷とも言える聖なる力が宿った聖剣、それをまともに受けた魔王は立ってる事すらままならないようで――そのままゆっくりと床に倒れた。


「呆気ないな、これが吾の最期か……」


「……なぁ一応聞いておく、何か残す言葉はあるか?」


「ないぞ? ――激闘の末に殺されるなら悔いはない……ただ、あれだな。勇者である貴様の悔しがる姿を見られないのが残念ぐらいか?」


「そうかよ、ならさ――終われよ、魔王」


 それが、俺の勇者としての最後の仕事。

 剣を構えて振り下ろし、魔王の首を――――。


――――――

――――

――



「……やめたい」


 その日は俺のそんな一言から始まった。

 手元には今日の新聞、号外と書かれたそれにはこんな文言が続いていた。


【ギルドヴィルトゥスまたもや大暴れ!】

 

 書かれている内容に目を通せば、今回の被害状況が分かるのだが……そこには港町半壊とまで書かれており、その文面を見るだけで頭が痛くなってくる。


「はぁ……まじで鬱」

 

「くはは、なんだルクス? そんな風に辛気くさい顔をして」


 執務室で思わずそう呟けば、それに反応するように同室にいた副ギルドマスターの彼女が声をかけてくる。


 そっちに視線を送れば、そこにいるのはあり得ないくらいの美少女がいた。

 銀の長髪に金色の瞳をした紅いドレスを纏うそいつは、何が面白いのか俺の顔を見て笑っている。


「おいリリス、分かってて言ってるだろ」


「はて、なんのことだ?」


「…………このあとの仕事手伝ってくれ」


「そうだなデートといこう」


 ……ほんとまじでこいつ。

 そんな事を心底思いながらも、俺は溜まっていた書類に目を通し……そこに書かれている内容に再び絶望し、キャパオーバーで目の前にあった机に倒れ込んだ。


「……なぁ、あいつら呼べるか?」


「あいわかった、呼んできてやろう」


 地の底から漏れ出たような声でそう頼めば、リリスは面白がりながらも部屋を出ていき、しばしの平穏が……というか静寂に包まれた。

 そんな少し落ち着ける空間で、俺はどうしてこうなったかを思い返す。

 

 この世界では冒険者という職業が人気だ。

 しかしその職業に就くにはギルドというものに所属する必要があり、富や名声そして力を求める者の多くがギルドに所属する。

 

 ギルドという組織の仕組みである以上、所属する者はその組織に手に入れた収益を渡す必要があり、弱小ギルドでもギルドマスターとなればメンバーさえいれば稼げるというのが友人談。


 楽して稼ぎたい、何より動きたくないと思った俺はすぐに決意してギルドマスターの資格を取ってギルドを作ったのだ。

 大手ギルドや有名になる必要は無く、俺としては最低限の生活さえ楽に出来ればと思って始めた……筈だったんだけど。

 

「……細々とやるつもりだったんだけどなぁ」


 最初はリリスと二人で適当に作ったギルド。

 たった数年で住んでいるアニマ国で最強の称号を手に入れてしまったこのギルドには、男五人女七人の計十二人のメンバーが在籍している。

 

 ……え? 最強と呼ばれる割に、人数が少なくないかって?

 いやさ……最初は来る者は拒まず、去る者は追わずの方針で始めたんだが、なんか最近は十二人全員に認められないと入団出来ないという新しいルールが出来たんだ。

 

 そのせいかここ一年ぐらい入団してくる奴がいないんだよな。

 俺としては同じぐらいのモチベで適当に書類仕事を手伝ってくれる奴が入ってくれれば嬉しいんだけど、皆がやる気ありすぎて下手に団員募集できなくて……。


「はぁ……というか遅くね?」


 魔時計を見れば、既にリリスが皆を呼びに行って十分が経っていた。

 何かあったのかと思って不安になれば、部屋に誰かが入ってくる。


「リリス、皆は……?」


 今日このギルド内には二人残ってたはずで、誰か一人でも連れてくるとでも思ったんだが、戻ってきたのはリリス一人だけだった。


「丁度依頼に行ったらしい……よかったな、また仕事が増えるぞ」


 そう言いながらも依頼書を渡してきた彼女。貰ったそれはAランク越えの依頼ばっりで……向かったメンバーの名前を聞いて、問題が起こることが確定した。


「あ……胃が」


「なに、また名声があがるぞ? ……なにせ今回の依頼は地竜の討伐だ」


「……だから問題なんだよぉ」


「良いではないか、龍殺しに彼奴は適任であろう?」


 そうだけど……そうだけどさぁ。

 完全に弱った俺は、明日はやくとも今日には帰ってくるだろうギルドメンバーの事を思い返しながらも、キリキリと鳴る胃を抑えて、心底思った。

 ――あぁ、ギルドマスターやめてぇと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る