第11話「情報屋再誕? ――リニューアル――」


「は? はああああああああ!?」


「七海先生!! 私たち相棒じゃなくて恋人なんで困ります!!」


 幼馴染で元恋人が何かふざけたことを言ってるが俺の思考は停止していた。目の前の女傑の言葉の意味が分からなかった……いや理解したくなかった。


「そうですか、なら恋人で相棒ということで良いですね?」


「それなら大丈夫です、ハル、結婚は卒業後で良いんだよね?」


「ツッコミが大渋滞してるから落ち着けバカスミ!!」


 もうどこから片付ければいいか分からなくなって来た。頭痛い……どこから聞けば良いんだ? 話を整理させてくれ。


「ハル~、私それ言わないで言ってるのに……どうせならハニーとかの方がいい」


「夏純……俺は、お前と……絶縁した、だろ?」


 そうだ俺は、あの日に夏純を拒絶し絶縁した。そして一からやり直して……一人で生きて行くって決めたんだ。




「え? してないよ?」


「嘘つくな俺は言ったぞ!!」


「ハルこそ勝手に絶縁しないで、言われてないし承諾もしてませ~ん」


 べーっと舌を本当に出すのが俺の幼馴染だ。ただ俺の前以外では滅多にしない。こう見えてTPOを使い分けてる女で伊達に社長令嬢ではないという事だ。


「だって俺は家出する前に……言ったはずだ!!」


「二度と前に現れるなって言われただけだよ」


「それだよ!! 堂々と俺の前に現れてるじゃないか!?」


 あの時ドア越しに言った。あいつも涙声で謝っていたが俺は無視して引き籠って数日後に家出したんだ。


「残念でした~今いるのはハルの横だからセーフで~す」


「そういう意味じゃない!!」


 あ~言えばこう言う……付き合ってた時はもう少しは大人しかったはずなのに何か妙に反抗的というか色々と言いたい事が有るが


「これも幼馴染ですか信矢くん?」


「まあ、僕と狭霧とは少し形態が違いますね」


「私から見たら似たようなものですが……さて、二人とも再会早々イチャ付いてないでお仕事の話をしましょうか?」


 呆れた感じで会長が言うがイチャ付いてない。俺は慌てて訂正しようとしたら夏純も口を開いて対抗していた。


「イチャ付いてません!!」

「イチャ付いてます!!」


 わずかにタイミングをズラして叫んだ幼馴染を見るとドヤ顔していた。そのまま俺の横にピッタリ付いて離れない。


「仲が良いのは伝わりました……ではまず品物を頂けますか?」


「え? でも……依頼人は」


 依頼人の上つまり今回の指示を出した人だが依頼人は八岐さん、そして特例でカイさんのどちらかだ。


「信矢くんに聞いてませんか? なら、その情報を私に売って下さい正当な対価をお支払いします」


「お、俺は……バイトで情報屋やってる半端もんですけど、矜持は守りたいっす」


 情報屋は信用第一だ。それに失敗だらけだから最後の一線だけは守りたい。そう思って精一杯睨み返すと千堂グループの長は苦笑した後に口を開いた。




「はぁ……そうですか、夏純さん?」


「はい!! 押さえま~す」


「おい!! おまっ!? バカスミ!!」


 そして押さえつけられた俺は夏純と春日井さんの二人に隠し持っていたUSBメモリーとドラッグの入った財布を奪われた。


「あなたは情報を奪われた……守れない時点で情報屋として失格です」


「くっ……」


「ですが夏純さんがあなたの相棒だったら? こんな状況にならなかったのでは?」


「それは……」


 夏純は普通に強い。下手な男より強いし師匠は元チャンプのプロだ。一方の俺は足はそこそこ速いだけで後は頓珍漢な能力が使える半端な男で、どう見ても使えるのは夏純の方だ。


「信矢くん? この情報を各所に、あと蛇王会にも流して下さい。恐らく島の性格の悪いガイドがプリプリ怒るでしょう」


「確かに快利くんより怒りそうですね……ま、情報を漏らしたのは彼ですので、そう報告しておきます」


 そう言って春日井さんはUSBの中身をコピーすると部屋を出て行ってしまった。そしてドラッグの方も千堂の研究部門に回され解析を受けるらしい。


「それで結構、TDの現物……やっと確保しました。これで特効薬を作れれば良いのですが……」


「特効薬? ドラッグに特効薬ですか?」


「TDは厳密にはドラッグでは有りません……『時闇ときやみくさび』という人の悪意を増大させ意のままに操る物質をドラッグに微量に混ぜた毒薬です」


 いきなり話がとんでもない方向に動き出したが俺は事前に事情をカイさんに聞いていたから理解できた。隣の夏純は不思議そうにしているから、まだ世界の裏の話はされてないようだ。


「時闇の楔……ですか、その件は初耳です」


「でしょうね、TDとはタイム・ダークの略……時闇から取ったのでしょう。木崎 広樹という四年前の主犯の学生が、どこからか入手し広めた謎のクスリです」


 このTDは依存度や後遺症よりも恐ろしいのは致死率や副作用らしく死者も出ているそうだ。言わばドラッグというより毒薬に近いらしい。


「そうか、被害者を助けるために現物を欲してたんですね!?」


「ええ、快利くんもそのために動いてます、事件当時は”あの戦い”の最中で気付けなかったので……彼は今も後悔しています」


 やはりカイさんは人助けのために動いていた。蛇王会に協力した原因もそれだったと見て間違いないだろう。


「そうですか……なら情報を貴女に渡すのが正しい、のか」


「今回はたまたまです。あなたの矜持、見せてもらいました。その上で今回の報酬は私から出しましょう」


「……はい」


 金は手に入るが問題は八岐さんに何て言い訳するかだ。気が重いと思っていたが千堂会長の話は終わってなかった。


「あと今後は夏純さんと二人で一組の情報屋LBはラバー&バディでお願いします」


「なっ!? LBはそんな略称じゃないですよ!!」


「ええ、知ってますよ……でも今よりはマシなのでは?」


「そ、それは……」


 確かに……今の略称も決して良いものじゃない。むしろ恥ずかしくて名乗れない程で八岐さんにも言えず、けむに巻いたくらいだ。


「え? ハル、今は何の略なの?」


「……リミテッド・ビギナー」


「え? それって……直訳すると限定初心者?」


 俺はつまり超初心者の情報屋って裏の世界では言われてたんだ。


「情報屋として未熟なので限定的な任務のみを依頼する初心者という意味で快利くんと私で付けました」


「ぷっ……ハル、AT限定みたいで可愛いよ……ぷぷっ」


「お前、全国のAT限定の人達に謝れ!! 今時MT車なんて流行らないからな!!」


 夏純にバカにされ思わず言い返していた。だが結果的にこの夜……俺達は二人で情報屋LBになったんだ。

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