第3話「緊急依頼 ――トライアル――」
「そう、お前は周囲を幸運にする能力を持っている。そういう能力を俺達はスキルと呼んでるんだ。だがお前のその能力の固有名詞はまだ無い。つまり新種だ」
「だから? つまり……あんたも俺を利用するのか?」
挑発して俺は精一杯の強がりを言うが内心どこか期待していた。そして目の前の男はニヤリと笑い言った。
「ふっ、もちろんだ……その代わりこの家から俺が連れ出してやる。そして能力の使い方を教えてやるよ、そうすれば生きやすくなる、違うか?」
まさかの勧誘だった……だけど、もうどうでも良くなった俺は頷いた。
「分かった……繋がりなんてクソ食らえだ、俺を連れて行ってくれ!!」
俺はその男の手を取り今までの日常にさよならした。恋も親愛も全てが嘘だった日常から抜け出したんだ。でも唯一の心残りは幼馴染の少女の存在だけだった。もし、この能力が治れば俺はもう一度……お前に……。
◆
「それが三年いや正確には二年前、そんでお前は一人前の情報屋にはなれたか?」
「そこそこは、それで今日は直接なんて……急な用っすか?」
俺が八岐さんのために情報を集めていたら件の恩人は当たり前のようにベランダから人の部屋に入って来た。鍵なんてこの人の力の前では意味が無い。
「俺が回した客の依頼を断ったろ? 仕事を選ぶなぺーぺーだろ?」
「ですけどカイさん、誰の紹介でも無かったですが?」
「お前の
マジかよ……そんな話は聞いてねえ。でも、この人の関係者なら当然だ。なるべく能力を使いたく無かったから朝はスキルを使わなかった俺のミスだ。
「すぐ調べます!! ふぅ……俺は皆と繋がっている俺を中心に!! うっ……えっと、依頼者は……千堂グループ!? 春日井……さん?」
「正解だ……その人、俺の兄みたいな人でな、返事も無いから倒れてるんじゃないかと思って直接、様子見に来たんだ」
「す、すいません……カイさん!!」
この人が俺を連れ出し面倒を見てくれているカイさんだ。本名は今の日本では明かせない立場の人だが間違いなく善人だと俺は思ってる。その理由は二つ、一つはカイさんには俺のスキルは全て無効化され効果が出ない。
「ま、気にすんな俺はお前の能力に投資しただけだ」
そしてもう一つは俺みたいな不確定要素の多い人間の能力に金とコネをつぎ込んでくれるからだ。俺にかけた金を本物の情報屋に払った方が遥かに有用なのにカイさんは俺を情報屋として鍛えてくれていた。
「はい……すいません。そうだ、依頼は緊急ですよね?」
「ああ、頼むぜ春満……いや情報屋LB」
「分かりました。その緊急依頼、必ず完遂してみせます」
「期待してる……他に変わった事が有ったら連絡してくれ、じゃあな」
カイさんはそれだけ言うと次の予定が有るらしく慌ただしく出て行った。まずは、この春日井さんという人に謝る所からだ。
◆
「もしもし……情報屋、です」
『待っていたよLBくん』
「この度は申し訳ありませんでした……」
あのカイさんの知り合いで兄のような人と言っていた。恩人の兄貴分に俺は不義理を働いた訳で幸先が不安だ。
『気にしないで、それより資料は見てもらえたかな?』
「はい、確認しました。それで指示書の通りにターゲットの関係者を数名ほど確認しました……ですが……」
『何かな?』
この依頼人の名前もターゲットから全て特定できた。この電話の向こうの依頼人は春日井 信矢さん。俺と同じ大学出身のOBつまり先輩だった。
「この調査対象は……お母さん、ですよね?」
『さすが聞いてた通りだ、なら僕が誰かも知ってるんだよね?』
「はい、
あのカイさんの兄貴分なだけは有る。幾度も裏の事件を解決し貢献している千堂グループの凄腕エージェントだ。
『まあね、だけど本当に驚いた……名前すら表に出ていない事件の存在ですら分かるなんて君の能力は本当に凄いよ』
「どうもです、でも俺はこの能力が……好きじゃないっす」
この能力が有ったから俺の周りには人が居た。今にして思えば高校で急にモテ出したのも部活で人望が有ったのも親が優しかったのも……何より本当の恋人が出来たのだって能力のお陰で間違いだったんだ。
『それも聞いてるよ、さて……では本題と行こうか』
「つまりテストは合格ですか?」
『ああ、僕も人選は慎重にしたくてね……この後に駅前で合流したい』
「リアルでお会いに……ですか?」
『僕は古いタイプの人間でね……直接会って話したいんだ』
依頼人の言葉には従うしかない。本来は顔出しNGだけど恩人の紹介だし俺は指定された駅まで行き指定された電話ボックスに入って依頼人を待っていたら……頭に鈍痛がして意識を失っていた。
◆
「ううっ……ここ、は?」
痛む頭をさすりたいが腕が動かない、ついでに足も動かなかった。どうやら俺は椅子に縛れているのか?
「おいおい起きたぜ~」
「マジだ」
男の声がする二人だ。なぜ先ほどから疑問形かというと前が見えないからだ。今、俺は目隠しをされていた。情報は聴覚そして鼻つまり嗅覚くらいしか使えない。臭いは……少しタバコ臭い感じがする。
「俺は?」
「ノコノコとバカが釣れたぜ」
「あそこは俺らの狩場だからな!!」
狩場? 意味が分からない。だが今の状況はそこまで悪くない。俺は生きている。ならば交渉の余地は有るし向こうの要求が有るはずだ。これもカイさんに教えられた捕まった時の心構えだ。
「お、俺は何も知らないよ~、あんた達、な、なにが目的なんだよ?」
そして相手を油断させるために戦う力の無い俺は最初はビビった振りをしろ。そして相手が目的あっさり喋ったら小物、沈黙したら厄介な相手だから迷わずスキルを使えと教えられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます