第2話「能力 ――スキル――」


「さて、情報屋LBの仕事の始まりだ……」


 俺は家に戻ると全てのPCのディスプレイをオンにした後に隣の部屋の個人サーバーを見るが問題無しだ。


「前に熱暴走しやがったから……あれで大損こいた」


 本当は空調の効いた部屋に越したいが秘密裏に引っ越しをしてくれる業者は高いし何より知人に居ない。今は他人と最低限の繋がりの俺はこういう時は不便だ。


「あの人に頼めばすぐだろうが……最終手段だ」


 それに今の俺は裏社会で名を売り始めたばかりの駆け出しで、まだデカい仕事はしてない。先ほどのお得意ヤクザ様もスポンサーからの紹介だった。


「俺の能力スキル……もう俺には、これしかないんだ……」


 俺のような普通の学生が他の情報屋より優れているのは能力のみだ。まずPCから一番メジャーなSNSを起動し検索する。ストライド・フリーを検索すると大量の情報が表示され準備は整った。


「ふぅ、『俺は皆と繋がっている俺を中心に』…………よし、来た!!」


 俺が呪文のように唱えた言葉はトリガーだ。本来は唱える必要は無いが俺は毎回この言葉を唱えていた。自分のスキルを普段は拒絶し忌避しているから意識的に使えないように暗示をかけてもらっているからだ。


「相変わらず、キツいな……普段から……使ってれば大丈夫、らしいが……」


 そうしなければ俺は昔のように無意識に能力を使い相手を勝手に幸福にし無意識に仲を深め洗脳に近い状態で一部の行動を操ってしまうんだ。俺の人生はそんな事の繰り返しだったんだ。


「うぐっ……『ストライド・フリー』は隠れ蓑で本当の名は三年前と同じく『ストリーム・フリー』のままか、名前は略せば同じだし八岐さんの言う通りか」


 そんな苦い思いをしながらスキルの力で次々と情報が奔流となって頭の中に入って来る。この集団の大部分は大学に所属しているサークルばかりで過去の事件と類似点は多いという点だった。


「当時の主犯は現在も服役中の元T大生か……大学生が犯罪組織の?」


 主犯の男は国内最高レベルの元T大生の木崎 広樹。詐欺と脅迫おまけに売春斡旋や集団強姦……更に殺人教唆の罪まで付いている。同じ大学生とは思えない悪辣っぷりで被害者も百人以上いる最低最悪の凶悪犯だ。


「ま、俺も裏家業で悪い事して稼いでるけどな……」


 だが俺は自分で言うほど悪い事はしていない。ただSNSの書き込みを読んでいるだけだ。しかし俺の能力の前では丸裸だ。俺が能力を発動して見ただけでアカウントの使用者の誰と誰が繋がっているか全て頭に入ってくる。これが俺の能力だ。


「Connection Of Fortune幸運の繋がり、COFか……ほんとクソみたいな能力ちからだ」


 俺のスキルとカテゴライズされる特殊能力はCOFという名を付けられ俺以外で見た事の無い能力らしい。その力は俺が絆を繋げたいと思う人間に幸運を与え無意識で信頼感を深め代わりに相手の情報を引き出すという能力だった。


「だから俺の能力が無理やり人を引き寄せる……」


 つまり俺が親密になりたいと願うと相手が俺と無理やり接点が出来て幸運になり俺と絆を無理やり結ばされるという幸運を与える代わりに相手を魅了するようなクズみたいな能力だった。


「俺の絆なんて偽物だ……」


 この能力は意識すれば金色の糸のような物で俺にだけ目視可能となる。こういう風に能力をコントロール出来るようになったのはここ一年の出来事で、それまで俺は無意識に能力を使っていた。


「それは何も本人だけじゃなく本人の物からも繋がりを辿れるのがミソだ」


 俺が呟いてSNSのアカウントを指でタッチすると対象のフォロワーの名前など一部が輝き後は推理パートだ。例えば家族や友人だと分かりやすく強く発光する。


レッド……当たりだ」


 そして正の関係ならブルーで負の関係はレッドになるのが判明している。これは実験で分かった事だ。俺の能力はまだ分からない事が多くスポンサーに定期的に調べてもらっている。そして俺は唐突にあの日を思い出した。



――――二年前


 俺は夏純という恋人が出来てから人と人との繋がりは人生を楽しくすると勘違いしていた。だが現実は違った俺の絆は、周りの環境は、全て能力によって作られた偽りだったと思い知らされた。だから俺は周りを拒絶し引き籠った。


「繋がりなんて全部間違いだ……それで、あんた何の用だ? どうせ俺を座敷童扱いして利用したいんだろ?」


「その通りだ、鷹野 春満たかの はるまお前の本当の能力と意味それを俺が有効活用してやる。引き籠ってるよりマシだろ?」


 そう言われて俺は久しぶりに笑った。目の前の男は少なくとも俺を裏切った奴らと違い堂々と利用すると宣言した……それだけでもマシと思えるくらい当時の俺は人間不信になり病んでいた。


「能力? 何の話だよ?」


「やはり自分の特殊スキルに気付いてないか……」


 俺の部屋に無断で窓から侵入して来たのは二人目だ。一人目は幼馴染で恋人になった夏純……でも今はもう違う。


「スキル? 何だそれ?」


「お前は常に幸運だ、そうだろ? 鷹野 春満?」


「家族にも……やっとできた恋人にも利用されていた俺が? 不幸の間違いだろ?」


「そう考えるのも無理ないか……そして周りは幸福になったのか?」


 目の前の男の言葉に頷く。よく見ると意外と若い……俺と同い年くらいか? それにどこかで見たような気がした。


「ああ、俺以外は幸福だったよ……」


 あの夏純との日々も親から受けた愛情も全てが偽りだったんだ。だから俺は一人になる事を選んだ。

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