第9話「援軍 ――ヒロイン――」
◆
夢を見ている自覚が有った明晰夢というやつだ。内容は恋人と……夏純と別れた時の話だった。
「私は、ずっと一緒にいたかっただけなのハル!!」
「それで今まで俺を騙してたのか……」
扉の前で泣きながら言う夏純の言葉は俺には届かない。だって、これも俺の能力で言わせたに過ぎない言葉だと分かってるから。
「そうしないとハルが取られちゃうと思って……」
「そんな言い訳……家も、親も、夏純、お前も俺を利用していたんだ!!」
俺を、いや幸運を取られないようにしていただけだ。だから俺との繋がりをキープしていた。よく考えれば俺みたいな男が夏純に釣り合うはず無い。でも俺は幼馴染の絆なんて信じていたんだ。
「ハル!! 黙ってたの謝るから……だから話を聞いて……お願い!!」
「夏純、二度と俺の前に現れるな……全部、全部捨ててやる!!」
最後に泣いて謝る大事……だった恋人の顔が今でもチラつく。俺は裏切られた。でも今でも夏純のことが好きで……ずっと引きずっている。
「はぁ、最悪だ……」
連日の調査での疲れと酒浸りの日々で調査に精を出していた俺は夢見は最悪だ。サークルにも馴染んだが未だTDという謎の単語とドラッグとの関係性やストフリの謎を見つけられずにいた。
「今日は……21時からか、ダルい……」
「大丈夫か?」
「カイさん、一度でいいから玄関から入って下さい」
今日は背広姿で入ってきた恩人は部屋を見て呆れ顔だ。部屋は服は脱ぎっ放しで水のペットボトルが散乱し、コンビニ飯の包みが散乱していた。調査が忙しくて家事は二の次だった。
「こんな汚部屋じゃドアが開かねえぞ?」
「え? あっ……たしかにゴミ袋が、すいません」
つっかえていたゴミ袋を片付け、二人分の座る場所を確保すると俺はカイさんに今日の用向きを尋ねた。
◆
「八岐さんから聞いた調査頑張ってるんだって? 何か掴んだか?」
「え? 今回は……別系統の指示でカイさんは動かないのでは?」
「八岐さんの上から話が有ってな、場合によっては動く」
その言葉に俺は気を引き締めた。カイさん……本当の名を秋山 快利さんはコンサルタント企業に所属する普通のサラリーマンだが実は違う。
「救世主が動くレベルですか?」
「ああ……この一件、あちらの世界関連かもしれない」
コードネーム『救世主』と呼ばれる最強の能力持ちで、力が強過ぎるから安易に動けない人なのだ。そのカイさんから出た言葉に俺は驚かされた。とても俺の手に負える規模の事件じゃないと実感させられる。
「マジですか……じゃあ俺はお役御免ですか?」
「いや、八岐さんからの依頼は継続しろ、向こうも人手は多い方がいいからな、それにお前の能力……あてにしてる」
「……ありがとうございます!! 俺、頑張ります!!」
「ああ、少ないが活動資金は振り込んでおいた、頼むぞ」
「はいっ!!」
カイさんに
「それと本題だ、数日だが野暮用で連絡が取れない。何か有ったら例のアドレスに情報を送ってくれ」
「分かりました!!」
「あと危ないと思ったら逃げろ……無理だけはすんな」
「はい、ありがとうございます!!」
そして深々と礼をして顔を上げた時にはカイさんは居なかった。相変わらず神出鬼没な人だ。こうして俄然やる気になった俺は成果を上げようと意気込んだ。
◆
だが俺は意気込み過ぎて失敗した。ストフリのパーティーには既に十回以上は参加し信用を得てVIP客として優遇され始めていたから焦って油断した。
「ただの田舎のボンボンじゃないとはな……」
「なに言ってんすか大輪田さん……」
先輩に実家の事はバレていたから逆に利用し田舎者の道楽息子を演じ奴らの金ズルになった振りをして目的に迫った。そして今日ついに運営事務所への潜入に成功し俺は目的の物を確保した。
「まさか能力者だったなんて……驚かされたぜ」
「っ!?」(能力を知ってる?)
一ヶ月以上をかけて手にした成果は恐ろしい計画の一端だった。その詳細な証拠データと奴らが保管していたドラッグも運よく回収できたから撤退しようとした所を見つかった。
「隠さなくてもいいぜ……本物なんだろ?」
「アア……
俺は自慢の足の速さを生かし何とか建物外に脱出したが徐々に追い詰められ路地裏で囲まれていた。そして例のローブにマスクを付けた怪しい男が片言で言った。本当に外国人だったらしい。
「スキル? 何の話っすか大輪田さん?」
「さすがにとぼけるのも無理あるよ、鷹野~?」
能力の事を知ってる人間がいるなんて思わなかった。この情報を何とか八岐さんやカイさんに届けなきゃいけないが後ろが壁ではどうしようも無い。
「トイレ探してただけっすよ、薬は前から欲しかったんで……良いじゃないっすか」
「じゃあ薬やっから協力しろよ、お前も能力者だろ? すげえ計画が有んだよ」
「結構です……とにかく、俺、もうお家帰るんで……」
「それ無理~、じゃ頼むよザラムのだんな殺さない程度でな?」
「アア、こいつは俺がモラウ……」
そう言った瞬間、俺は殴り飛ばされた。ゴロゴロ転がされ連中の中心に投げ飛ばされリンチでも受けるかと思った。だが周りの連中は大輪田を除く全員が遠巻きに見るだけで何人かは震えていた。
「何だ今の? 何者だ……」
「オマエ、戦闘系ではナイ……回復? それトモ、まさか鑑定カ?」
「意味、分かんねえんだよ!!」
俺は立ち上がり反撃しようと蹴り上げたが簡単に防がれ逆に足を掴まれ叩き落される。頭から地面に叩きつけられ痛い……強く打ったようで頭から血も流れる。
「弱い……兵士や騎士ではナイ?」
「うっせぇ……どうせ俺の能力は弱いよ……」
俺はしょせん人と人の関係を人より深く知れて結び付けて後は断ち切った時にダメージを与えるだけの弱い力だ。時間もかかるし不便なものだ。
「ナンデ弱いのニ、一人デ、いる?」
「誰も、俺の周りには居ちゃいけない……だから一人なんだよ」
「……ソウカ、オマエ、補助系スキル持ち……ダナ?」
そして奴は能力と思しき力で距離を一瞬で詰めた。そのまま再び蹴られると思った刹那、眼前に迫った奴は何かに弾き飛ばされた。
「ハル!! 伏せて!!」
「っ!?」
それは足だった。後ろから響いた懐かしい声に従い俺は咄嗟に伏せていた。それと同時にホッケーマスクの男がゴミ置き場に蹴り飛ばされていた。
「ぐおっ!? ナンダ……オレノ、攻撃を?」
「私のハルをこれ以上、傷つけさせない!!」
オレンジの流れる髪は夜でも街灯に照らされ輝いて、強い意志を持った声は眼前の敵を威圧するように響いた。
「か……すみ?」
「ハル、お待たせ……迎えに来たよ!!」
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