ネクロマンサー死地を逝く

二歳児

第1話 昼

 クラス転移とか、あまりにもテンプレが過ぎるでしょうと言いたい。そして何故新学期が始まってクラスの雰囲気がまだドギマギしてるときに転移させたのかと大声で主張したい。

 そして生来の根暗が祟って、全くもってクラスに馴染めなかった過去の自分に、盛大に文句を言いたい。切実に。


 何せ、クラスから浮いたせいで、そのまま一人で生きて行くことになってしまったので。現在進行形で戦闘が起きている前線で。

 まだ転移してから半年しか経ってないのに。他の面子はまだお城の中でキャッキャウフフしているのに。何故なにゆえ俺だけこんな目に。とほほ。


「…………たぁーまやぁー」


 ヤケクソになって、吹き飛んで行く人間の頭を見ながら思わず呟く。


「おいテメェのそれ不吉だから止めろマジで」

「へーい」

「その適当な返事を止めて前を見ろ」


 隣にいる中年兵にド突かれながら、所謂いわゆる”魔族”の軍勢に視線を向ける。視線の先では、大量の半人半獣が、鎧に身をまとった人間の中に突っ込んできていた。人間達は、それを各々撃破して行く。


 今現在自分が従軍している戦争は、一般には人魔大戦とよばれているもので、開戦してから既に五十年近くが経っているらしい。と言っても、魔族とは半人半獣の存在全般を指していて、その異常発生が起ってからその対応に五十年間手こずり続けているというだけなのだと。だから実際問題あまり戦争らしくはなかったりする。

 そんな現状でも態々わざわざ”人魔大戦”と銘打っているのは、便宜上なのか、それともプロパガンダなのか。まぁ、そんな詳細なぞ前線の人間とは関係ないんですけどねぇ…………。


「え、でも俺前見てる必要なくないっすか」

「魔族がガンガン迫って来てる最中に下向いて集中して作業出来るテメェ精神を疑うわ」

「本業なんで」

「………はぁ。もう知らねぇからな。お前の身に何があっても」

「ちょっとー? 職務放棄だけはマジでナシで頼みますよ。俺全然死ぬんで」

「死ぬ程腹立つなテメェの顔」

「戦場で”死ぬ程”なんてアホ程不吉っすね」

「一回黙れ」


 額に青筋を浮かべながら悪態を吐くオジサンに守られながら、また下を向いて作業を始める。

 施しているのは、死体に死霊魔法を施して敵への攻撃やら何やらに使用するというもの。流石に人間の死体に色々と魔法陣を付与するのは気が引けるので、人間の御仏の時は少し手を合わせてから行うようにしている。


 現状俺が使える死霊魔法は二つある。

 一つ目は、死体がゾンビ化して誰彼構わず襲い掛かるようになる魔法。そして二つ目が、自分の身体能力に死体のステータスを加えるもの。

 後者に関しては、まだ他の人間には公言しておらず、前線バカンスの最中にこっそりと使用するのが限度。流石に人間の死体あさって力得てますってのは、あまりにもこの世界の宗教軍団に喧嘩を売ってますので。

 まぁ、止めないけどね。じゃないと貧弱なわたくし死ぬんでね。


 んで、攻撃に使用するのは一つ目の魔法の訳だが、何せ誰彼構わずに攻撃するので、なるべく最前線で戦わなければいけなかったりする。そうでもなければ、味方軍に突っかかって回る極悪かまちょゾンビ軍団が出来上がってしまうっていう。方々から恨みを買いかねない状況は出来れば回避したくてですね。

 ということで護衛のオッサンには是非とも頑張っていただきたい。


「さー、ちょっと離れましょうこの場所」

「はいよ」


 一旦数体の死体に仕込み終わって、その場を離れる。魔法を起動してから、オッサンと一緒に更に戦闘の外れへと移動した。

 その移動した先でも死体に魔法陣を付与していきながら、自分の魔法を施したゾンビーズの戦いを眺める。俺の魔力を使って動かしてるだけのゾンビなので、攻撃力はあまりない上に機動力もほぼゼロなのだが、案外敵の足を止めるには便利だったりする。


 元々死んでいる彼らは、例え頭を吹き飛ばされようと、魔法陣が壊されない限りは動き続けてくれるのよね。

 頭を狙って攻撃してくる魔族達が、首のない死体に襲われて困惑しているのを視界の端に収めながら、作業を続けた。


「何回見ても気持ち悪いわ。テメェの魔法」

「同感です」


 悪態を吐かれつつ、魔法付与の手は止めない。

 …………まぁ、死体を使ってるだけでかなり印象悪かったりするよね。使った死体の戦前の友人とかに報復で殴られたりとかもするからね。まぁ、俺にはこれしかないんですけど。体力もない一般高校生が異世界に謎転送されただけなんで。


 あぁ、マジで終わってる。なんでこんな目に遭わされてるんだか。

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