貞操逆転世界の全寮制校でも平和に暮らしたい

ブラックコーヒー

第1話 貞操逆転

 昨日は中学の卒業式だった。両親は普段通り来てすぐ帰っていった。寂しさは少しあったけど何も言えなかった。家に帰って来ても日常と変わらなかった。僕は何も言わず就寝した。


 翌朝は体が軽い良い朝だったが、いつもと少し違う事があるとすれば、鉄格子が僕の周りを囲っていた。それも頑丈な壊せないような鉄格子が、


「...........フィクション?」


 内から開けれる場所が見てもなかったので、仕方なく大声で「おはよう」と言ったら下から物凄い階段を上がる音が聞こえて、


 .....ガチャ、


「ようちゃぁ..........ん、べふ」


 陽気な母さんが僕に向かって飛びついて来たが、鉄格子のお陰で届かなかった。しかしここで妙な感じがした。母さんは普段冷たい人だったが今は何故か鉄格子を握ってずっとこっちを見ている。


「あの........母さん?」

「うん、有野洋の母親であり最愛の母親である有野志保だよ」

「そうだよね」


 普段なら最愛など言わないクールな母さんが今は、僕に完全に夢中であり、今にも抱きついてきそうな状態であった。しかし鉄格子があるので、


「あ、開けるねこの鉄クズから」

「開けれるんだねコレ」

「勿論、開けれなかったら発狂するよ私」


 母さんはポケットから鍵を取り出して外側にある南京錠に鍵を入れようとしたが、一向に開く気配がない。それに焦った母さんは、


「何で何で何で何で何で開かないの、私と洋ちゃんとの絆を邪魔するならこんな鉄クズ燃やしてやろうか」


 無事母さんが言葉通り発狂していた。近くで見るとより一層怖い。目は極まって、手はずっと震えている。それにずっと「洋ちゃん」を連呼しているので、良ければ開けてほしくない。でも、


「多分、違う鍵だよ母さん」

「そうだわ、この家には鍵が数十個あったから」


 (え、鍵ってそんなにいる?)


 母さんは走って部屋を出ていったが、最後の言葉に少し恐怖を感じたが、今はこの状況を変えたいので数分ベットの上で待っていると、


「はぁはぁはぁはぁ......ごめんね」

「大丈夫だよ母さん」

「今助けるから」


 汗だくで帰って来た母さんはさっきより目が極まっており、鉄格子から助けてほしいけど、今の状態の母さんとは正直なところ近づきたくない。



 ガチャ、


「開いたよ、出てきていいよ」

「ありがとう」


 僕はやっと鉄格子から出れたが、興奮する母さんが少しずつ近いて来て、纏わりつく様にハグしてきた。久しぶりだったので、戸惑って離れようとしたら、


「うぅうぅぅぅ......そうだよね。離れたいよね。こんな女と」


 号泣した母さんに罪悪感を感じた僕は、母さんの背中に手を移して、ギュっとハグすると、号泣しながら満面の笑顔で、


「あぁ............良い朝だね」

「そそそうでね」


 時間にして10分程度ハグしていたが、ずっと耳元で愛を叫ばれた。その叫びの中には僕しか出てこなかったので、不思議に思った僕は、


「父さんはまだ寝てるの?」

「アイツの事ね」


 母さんはハグを嫌々辞めて、父さんについて話してくれた。驚いたのは、父さんは数年前に浮気をして家を出て行った事、その相手が職場の女性だった事、自分と僕の政府から貰っている助成金を全部持っていった事、これを言ってくれた母さんは前より冷たく話してくれた。


「これ以上はアイツを感じたくないからもう今後一切聞かないでね」

「分かりました」

「それじゃあご飯にしよっか」


 母さんは部屋を出ていったが、僕はあの顔を忘れる事はないだろう。犯罪者でも見る様な顔で警告されたので、今後一才父さんは忘れよう.....僕は心に深く誓った。



 下に降りて母さんが朝ご飯の準備をしていたが、ジェスチャーで席に座れと出ていたので僕は指示通り席に座り待っていると、


「どうぞ、食べて食べて」


 机には白ご飯、味噌汁、焼き魚骨抜き、サラダが出てきて母さんの料理上手が朝から火を吹いた。それに横に座ってきた母さんは僕をずっと見てニコニコしていた。


「.............」

「食べずらい」

「私は洋ちゃんの空気だから」

「........いただきます」

「うん」


 結果、全て美味しかった。朝ご飯なら軽い方が良いと思っていたけど、これほど美味しいならずっと食べていたい。けど横に居る母さんは少し邪魔だったりする。


「それで」

「うん、とても美味しいよ」

「良かった、これからずっと食べたい?」

「そうだね母さんが良ければ」


 僕の言葉を聞いて母さんはポケットから紙を出して机に置いた。その表情にはさっきまでの和かさは全くなかった。慎重にその紙に書かれている文章を読むと、


「新山学校のパンフレット?」

「うん、それでこの学校には絶対行かないでほしいの」

「何故?」

「ここ読んで」


 母さんはパンフレットのある一文を指差して苦い表情を浮かべていたが、僕は理解できなかったので、その一文を読むと、


「この高校は全校生徒が寮で暮らす全寮制であり、如何なる場合もこれに準ずる」

「そう、これが一番憎い」

「そうですよね」


 新山高校は聞いた事がなかった。僕が行く予定だった高校は母さんが「そんな高校知らない」と言われて無い事が確定した。そこに行けるなら良いと思い、


「なら仕方ないけど新山高校にするよ」

「..........................冗談よね」

「本気で」

「そう、なら私は高校生になる」


 冗談で言ってないのに、冗談が返ってきた。母さんは卒業してるよね。それに母親同伴は少しキツイ、涙目な母さんには悪いけど、


「母さんには寂しい思いするけど、行かせてほしい」

「近い高校ならいっぱいあるのよ。別にここを選ぶ必要はないし、何で私が高校生になれないのよ」


 泣きながらパンフレットを握りしめてトイレに向かった母さんは、数時間程度トイレから出てくれなかった。その間に扉の前で必死の説得をして..........何とか条件付きで入学を認めてくれた。


 条件として、まず毎日必ず電話する事、1ヶ月に何回か帰って来る事、女子は絶対に信じない事、最後にこんな母親でも嫌いにならない事、最後のは絶対に守ると誓い、トイレから出て来てくれた。


 その後、新山高校に電話して入学準備を進めた。男子である事が決め手になったらしく一瞬で入学が認められた。それにパンフレットを再度読んで、変な点が何個かあった。


 まず、前入学生の男女比が1対100程度だった事、全寮制だが部屋には男子一人、女子が二人である事、学校規模ではない警備が備わっている事などを踏まえて、


 (薄々感じてたけど、これって貞操逆転だよな)


 母さんが変わっていた事や平凡な父さんが女に走った事、テレビを見ていて変な事件が多い事、全てが不思議だったが今理解できた。でも.......鉄格子はやり過ぎだよ母さん、



 


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