完全に詰んだ状態のゲーム世界で、凡庸かつ最弱な俺が無双し、ハーレムを築く方法。それは……趣味で蓄えた『理数系知識』でした。
下等妙人
第一話 異世界転移して早々、詰んだ件
生き地獄のような就活をなんとか切り抜け、ほっと息を吐いたのも束の間、社会に出て早々、本物の地獄が待ち受けていた。
新入社員歓迎会という名の、アルハラ地獄である。
『お前、ここで飲まなきゃ男じゃねぇぞッ!』
まさかまさか、入社初日の時点で上司に逆らえるはずもなく、俺は言われるがままに店で一番強い酒を呷るはめになった。
そう、スピリタス一気飲みチャレンジである。
もはや飲料物ではなく工業用アルコールと呼ぶべき代物が胃の中に落ちていく……
と、そんな感覚を味わったところまでは、鮮明に覚えているのだが。
そこからどうしてこんなことになったのか、こちらには知る由もない。
気付けば先刻まで口内を支配していた強烈な酒気が消え失せていて――
酒宴の場であったはずの現在地は、見知らぬ木造建築の内部へと変異し――
同期社員という名の被害者仲間と、上司という名の悪鬼羅刹共が、見目麗しい女性達へと姿を変えていた。
それも、只人ではない。
全員が亜人である。
……ていうか、この人達、どっかで見たあるな。
「せ、成功、しましたわね」
女性達の一人(金髪エルフ)が口を開いて、美声を響かせた。
これに応ずるような形で、隣に立っていた赤髪の獣人が目を細め、呟く。
「しかし……とてもではないが、強者には見えんな」
続いて、彼女の隣に立つ銀髪の美少女エルフが所感を…………
あっ、思い出した。
そうだ。
軍師と亜人達のリベリオン。
生まれて初めて買ったエロゲで、ドハマりした時期がある。
目の前の美女達は、そんなエロゲのキャラクター達にそっくりだった。
「……人は見かけによらないものです。この方、もしかすると凄い人かもしれませんよ」
涼しげな瞳で見つめてくるこの銀髪美少女エルフ、確か名前は、イリア・スノウ、だったかな。
軍リベでは一番推してたキャラだ。
いやぁ~、まさか本物に会えるだなんて、俺ってばラッキー…………
とか、言ってる場合じゃなくね?
さっきまでの状況からして、アルコールがもたらした夢か何か、と判断すべきなんだろうけど……それにしては実在感があまりにも強すぎる。
一瞬、明晰夢かとも思ったのだけど、どうにもしっくり来ない。
……まさかこれ、現実か?
いや、そんなこと、あるわけが。
「異界の御方。お名前は?」
金髪エルフ……確か名前は、シャーロット・フィーリス、だったか。
主人公が住まう里の、長を務めている……といった設定のキャラクターだ。
「えっと、杉田和馬といいます」
こちらの返答にコクリと頷いてから、シャーロットは簡単な自己紹介を行い、そして。
「スギタ様。どうか我々を、帝国の魔の手からお救いください」
……首を傾げざるを得ない言葉を、投げてきた。
帝国。帝国。帝国。
あぁ、そうだ。
彼女達の里はとある事情により、強大な力を有するガルデノン帝国に宣戦を布告され、存亡の危機を迎えてしまう……といった設定だったな。
「我が方と帝国との間には、数千倍もの戦力差がございます。これを、なんとかしていただきたく……」
知ってる。
ぜんぶ知ってる。
こっちはせいぜい三〇〇人程度しか戦力にならないのに対し、あっちはおよそ一〇〇万。
大事なことだからもう一回言わせてもらおう。
味方は三〇〇。
敵は一〇〇万。
桁外れってレベルじゃねぇ~ぞ。
もはや完全完璧に詰みの状態って感じだが……
それでも彼女達は負けようがないのだ。
なぜならば。
「いや、俺なんかに頼まなくても、問題はないでしょ? あいつが居るんだから」
「あいつ、とは?」
「ゼロスだよ。ゼロス・アルヴィエント」
原作主人公、ゼロス。
彼はタイトル名の通り、軍師として里を、引いてはヒロイン達を勝利に導いていくのだが……こいつがもう、とんでもないチート野郎だった。
軍師とか銘打ってるけど、実際はオールラウンダーの超天才。
もう、こいつ一人でよくね? って感じの最強型主人公で、事実、ヒロイン達は一応、さまざまな役割を持たせられてはいたものの、実質的には彼の引き立て役でしかなかった。
彼が居るのだから、わざわざ俺なんかに頼らなくても……
と、そのように考えた矢先。
ふと思う。
発想が、間違ってるんじゃないか?
彼が居るから俺に頼る必要はない、ではなく。
彼が居ないから、異世界人の俺を呼び出して、頼るが必要があるんじゃないか?
いや、そんな、まさか。
「あの、スギタ様」
「……はい」
「ゼロスとは、どなたのことでしょう?」
…………マジかよ。
ここ、ゼロスが誕生しなかった場合の、世界線だったのかよ。
「あの、どうかされたのですか? 顔色が悪うございますが」
受け答えが出来ない。
とりあえず、首を横に振った。
……いや、どうすんの、これ。
シナリオを全部知っているからこそ、わかる。
軍リベが陵辱系のエロゲでなく、純愛系ジャンルの一つになりえたのは、総じてゼロス・アルヴィエントの存在あってこそなのだ。
制作者という名の神によって勝利を約束されたチート主人公。
彼が不在の状態で、どうやって戦力差数千倍という絶望を、ひっくり返せというのか。
「ふむ。ところでスギタ殿」
赤髪の獣人……マリア・ローズが問うてくる。
「貴殿は圧倒的な武の才をお持ちか?」
「……持ってません。ただの社畜候補です」
続いて、イリア・スノウが問うてくる。
「伝説級の魔法が、使えるとか?」
「……使えません。ただ、魔法使いになる予定はあります」
続いて、シャーロット・フィーリスが問うた。
「誰も思い付かぬような戦術を編み出す、天才軍師では?」
「……思春期の頃にそんな妄想してました。けど、それ以上でも以下でもありません」
相手方の期待、その全てを粉砕したことで、場の空気は最悪なものとなった。
そんな中。
小麦肌の女オーク、リーナ・ジャンクションが疑問を投げかけてくる。
「じゃあさ。お前、なにが得意なの?」
これに対し、俺は悩みに悩んだ末に……
胸を張って言える長所を、口にした。
「――――理数系の知識を、少々」
~~~~あとがき&お願い~~~~
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今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!
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