第二章 幸運集めのフォークローバー 4

 並んで廊下を歩く、松野と孝慈の背中。

 旧校舎のほうへと一足早く向かう彼らを廊下で見送りながら、僕は少し複雑な気持ちでいた。

 まるで気がつかなかったけど、二人は、あんなに仲が良かったのだろうか。

 僕が勝手にそう思い込んでいるだけなのかもしれない。

――だけど、とても似合う二人に見えたのだけは確かだった。

 いつもどこか不安げに見える、小さく華奢きゃしゃな松野の背中と、の光を浴びたように真っ直ぐな、孝慈の大きな背中。

 夏休み明けに、ちょっとした根拠のない噂が立っていたとしても――おかしくはないだろう。

 いっぽうの僕は、月曜日に出していた進路希望の調査表のことで、タイミング悪く稲田先生に呼び出された。

 一年の七月。僕は卒業後の進路がまるで固まっていなかった。

 早い段階から考えておいた方が良いぞ、という稲田先生の指摘はまったくもってその通りで。

――歌高は進学者が多いのが特徴だけど、僕は本当にやりたいこと、入りたい大学があってここへの入学を決めたのか、と聞かれたらすぐには答えられないと思う。

 稲田先生からの質問になんとか答えるのが苦しかった。

 先生との面談を終え、僕も二人が先に行っている旧校舎に向かおうとすると、教室前の廊下で後ろから声をかけられた。

「ねえ、加澤くん」

「ん?」

 振り向くと、隣のクラスの女子が立っていて、興味津々といった様子で言った。

「なんだか意外な組み合わせだと思ってね。コージと加澤くんに、それから松野さんまで」

「コージの友達?」

「うん。あたし、B組の相坂あいさか。コージがこれからお世話になります」

 相坂さんの話を聞くと、先ほどのホームルームのようすを廊下から見かけたらしい。僕たち三人はかなり斬新で面白い組み合わせだった、と。

 それから相坂さんは孝慈のことを話し始めた。

「知ってるでしょ? コージって中学の時、故障でバスケ辞めちゃったんだよね」

「……ああ」

 孝慈の故障。

 根っからのスポーツマンに見える彼が、高校で何の部にも入っていない。

 詳しくは知らないが、彼は歌扇野ではなく隣の隣の市の出身であり、そこから電車で通っているらしい。

 彼の中学時代のバスケ部でのことは謎に包まれていて、そのことを誰かが聞いても適当にごまかして語りたがらない。

 孝慈の知り合いにたずねても、返ってくる答えはバラバラだった。

 彼ら自身、中学時代の孝慈とバスケ部との間に何があったのかをよく知らないようで、ほとんどが想像の域だったという。

 ただ、ケガで辞めたのだと。本人はそう言っていた。

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