第一章 座敷わらし 24

 やや逆立ちした孝慈の髪型は、長身と相まって、初対面の人間に威圧感を与えてしまいそうな雰囲気だった。

 この髪の毛については、「寝て起きたらこうなってる」というのが彼の言い分だ。

「皿洗いじゃなかったのか?」

 僕が聞くと、孝慈はテーブルに身を乗り出しながら答えた。

「いや、さっきからやけに三番テーブルが良い雰囲気だったから、コッソリ見に来たんだよ。そしたら、なんじゃいこれは」

 孝慈は松野をちらりと見てから、僕の肩を組んで耳打ちした。

「なんでだよ」

「はぁ?」

「だから、なんで松野とこんなに仲良しなんだよ……!」

「はぁ?」

「今日の昼休みに助言を与えたばっかりじゃんよ。なのに、さっそく放課後デートだなんて……お前、積極的にも程があるだろ……!」

「知らないよ」

「俺は1Aの観察者として、もっと山あり谷ありの胸が熱い進展を期待してたってのに!」

「誤解だってば。松野と喫茶店にいるのは別の理由で……」

「……何の話?」珍しく松野が聞いた。孝慈は僕と松野とを交互に見て続ける。

「かと思えば、松野のことを理詰めで追い込んでいじめてるし、いったいこの状況はなんなんだっ……!?」

「ちょっと待て、僕がいつ松野を理詰めにしていじめたと言うんだ」

 反論すると、孝慈は口を尖らせる。

「いや、だってさっき言ってただろ。お前が座敷わらしなのは分かった、何か補足や反証はあるかって」

「ああ」彼の説明で気がつく。

 和歌子は僕と松野にしか見えていないんだ。

 そして、松野がかげで呼ばれてるあだ名は、「座敷わらし」。

 どうやらそれらのせいで、盗み聞きしていた孝慈に誤解が生じていたみたいだ。

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