第一章 座敷わらし 11
松野瑞夏について。
松野は普段からもの静かで、休み時間はいつも独りでいる。机はいちばん端の窓際、前から三列目。
見かけた会話は、クラスメイトの女子に話しかけられて、相槌の多い最低限のやりとりを二、三往復するパターンがほとんどだった。
自分から話を振ったのを見たことはない。
放課後も、誰かに話しかけられるのを避けるようにして、鞄を両手に抱えていちはやく帰ってしまう。
そうやって教室を出ていく時の、重めのショートヘアーで表情の読めない横顔が印象的だった。
初めて会ったのは入学式の時だ。寡黙で、自分のことをあまり語りたがらない彼女。
教室での最初の自己紹介の時からそんな雰囲気があった。
何か言おうとして口ごもった後、よろしくお願いしますとだけ言って席に戻った。自分のことを話すのが苦手らしいと、それをみて悟っていた。
「さて――」
僕は目の前に座る二人を見た。二人ともショートヘアーで、和歌子のほうがじゃっかん背が低い。
喫茶店の黄色いテーブルと白い椅子。テーブルを挟んで僕と二人は座っている。
和歌子に案内されたのは、マトイ書店の近くにある『ケーテ』という喫茶店だった。
いかにもここ数年の間にできたばかりという、まだ新しく真っ白い内装。きれいな店内のおかげで、目に優しそうな緑の観葉植物がよく映えている。
喫茶ケーテは、今まで入ったことはなかったが、外から見える店内のようすからして、若い女の人が利用するおしゃれな場所、という印象だった。
今も視界の周りには女性客がちらほら見えている。
なんだか自分だけが場違いなような気がして、少し落ち着かない。
肩を縮こまらせながら和歌子を見ると、メニュー表を興味津々に眺めている。
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