第一章 座敷わらし 4
おそるおそる首を動かし、視線を横に向ける。
その人物と目が合う。くりくりした大きな瞳。
抱きついてきた彼女は、ふっと微笑みを浮かべた。
僕の体に、同い年くらいの女の子が抱きついているではないか。
「ちょっと……!」
僕がかすれた声を上げると、女の子はひょいっと横に飛び退く。
切り揃えたショートヘアーは、おかっぱ頭。髪には幸運のクローバーを模した、銀色の髪飾りの金具がついている。
小柄な少女だった。どこかの学校の制服を着ている。
こんな季節だと言うのに、セーラーの冬服で、着物のように袖の余ったカーディガンまで羽織っている。
自らを包む夕焼け色の光を見つめながら、女の子は口を開く。
「――うまくチカラが共鳴したみたいですね」
カーディガンの下から校章のバッジがのぞく。歌高の文字だ。スカーフの左上、制服の襟元につけられた、僕たちと同じ歌扇野高校の校章。
歌扇野高校は現在ブレザーの制服を採用しているが、昔は詰め襟とセーラーだったという。
すると、彼女が着ているのはうちの古い制服なのか? 季節外れの服装もだし、この子はいったい?
そして、女の子の体を霧のように覆っていた光が晴れる。
僕は非常に戸惑い、助けを求めるように松野を見る。
「…………」
だが、松野はどういうわけか女の子に気づいていないようだ。女の子には見向きもせず、右腕を反対側の手でしきりに触ってうつむいている。そして、
「ごめん!やっぱりなんでもない! 急に呼び止めちゃって……ごめん」
松野は断りを入れると、身をひるがえして店の入り口に走った。
「あ、ちょっと――」
僕は自動ドアの開く前に、何も考えずに松野に駆け寄る。
「――どうしたの?」
聞くと、松野は脈絡なく答えた。
「ちょ、ちょっと買い物に……! えっと、そう、お店の備品を頼まれてて……!」
言い終えると、自動ドアに身をかすめながら走り、バッグで顔を隠すようにして駐車場を横切った。
「……急いでるから、ごめん!」
と松野は言い残して、走り去った。
僕は後を追って駐車場を出た。夕陽で視界がくらむ。手をかざして西日をさえぎり、松野が行った方向を目で追いかけたが、既に彼女の姿は無かった。
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