17. 砂嵐なので
水道を完成させてから三日が経った日の朝。
酷い砂嵐を見て今日の作業を諦めた僕は、王妃様から興味深い本を手渡された。
この本は魔導書と言って、デザイア王国に伝わる魔法が記されているらしい。
王妃様の見立てでは、僕は知識さえ付ければ水魔法以外も扱えるようになる素質があるらしく、外交や内政で忙しくしている王妃様に代わってソフィアが先生として教えてくれることになった。
「この辺りは基本の魔法が書かれているの。
しっかり練習すれば、適性が無い属性でも使えるようになるわ」
「帝国に居た頃は適性が全てだと言われたけど、ここでは違うんだ。
頑張ってみるよ」
「適性の魔法は大した努力をしなくても使えるだけで、すべての魔法は努力次第で扱えるようになるの。
少しでも扱える属性の魔法なら、魔道具にして自由に使えるようにも出来るから、可能性がすごく広がるわ」
この部屋の天井に埋め込まれている光る石も魔道具らしく、知識と細かい加工が出来る技術さえあれば色々な魔法の効果を持つ道具を作れるらしい。
作り方自体は難しくなく、儀式魔法と同じように魔法陣を刻み込み、魔力を少しだけ流して起動させれば完成らしい。
ただし一度魔法が起動すれば、壊すまで永遠に続くから火や水の魔道具は作る場所を考えないといけない。
「他の属性の魔法も勉強したことはあるけど、使えるようにはならなかったよ?
それでも大丈夫なのかな?」
「やり方が間違っていたのかもしれないから、頑張りましょう。
それに、使えるようになっていても分からないこともあるの」
「というと?」
「私の手を見てもらえるかしら?」
「見ているよ。
何か起きているのかな?」
「これ、私が使える水魔法なの」
「確かに、少しだけ水が出ていたね」
現れてすぐに蒸発しているから、目で見ていても全くわからない。
少しだけ光を反射する瞬間もあったけど、これでは手汗と勘違いしてもおかしくない。
「触ると分かるのだけど、汗にしか見えないのよね……。
でも、適性が無い魔法でも扱うことは出来るの」
「使い道は無さそうだけど、確かに使えることは分かったよ」
「魔道具はね、これだけの魔法でも作れるの。
これは私が作った水魔法の魔道具よ」
そんな言葉と共に取り出されたのは、米粒ほどの大きさのダイヤモンドが嵌められた指輪だった。
目を凝らして見てみると、宝石のところに魔法陣が刻み込まれていた。
これだけ小さい魔法陣は描くだけでも大変そうだが、微かに水魔法の魔力を感じるから、今も効果を出し続けているらしい。
水の気配は殆ど感じられない……というよりも、人そのものが水の塊みたいなものだから、気配があっても見分けられない。
「それはどんな効果があるの?」
「お肌が乾燥するとひび割れてしまって痛むから、常に水に触れさせて割れないようにしているの。
これが無かったら、今の私は血まみれの醜い顔をしていたと思うわ」
「少ない効果でも、そこまで出来るんだね。
使い方次第ってことか」
「そうなの。身に着けていれば勝手に私の魔力で動いてくれるから、すごく便利よ。
こっちはお肌に悪い光を防ぐための魔道具よ」
「ソフィアの肌が白かったのはそういうことなんだ」
前から気になっていたことだけど、デザイア王国の人たちは日焼けしていることが多い。
しかしソフィアの家族は日焼けとは無縁で、綺麗な肌をしている。
「そうなの。これはレインのために作ったから、受け取ってもらえると嬉しいわ」
「ありがとう。大切にするよ」
ソフィアが差し出してくれた魔道具も指輪の形をしているから、付ける指を間違えたら揶揄われる……というよりも、大問題になりそうだ。
左手の薬指には絶対に付けられない。
「これで日焼けの心配をしなくても、ずっと外で作業出来るわ」
今までは日除けに水魔法で屋根を作っていたが、その必要が無くなる。
そうすれば水魔法だけでも出来ることが増えるから、今まで以上に複雑な物も作れると思う。
「助かるよ。本当にありがとう。
早速、明日の田植えで試してみるよ」
「田植え……私にも出来るかしら?」
「もちろん。難しくないから、手伝って欲しいくらいだよ」
昨日のお昼の時点で土も無事に作り終え、水もしっかりと張っているから、明日から苗を植えても問題無いはずだ。
問題は苗を植えた後に砂嵐に襲われた時で、水田を覆う透明な建物が骨組みまでしか完成していない今の状況では少し不安がある。
……帝国では嵐がよく訪れていたから、問題は無いと思うけど。
それでも心配なものは心配だ。
もちろん小屋が風で倒れないように頑丈にする必要もあったから、使う鉄の量が少し増えそうだ。
「レインの力になれるように頑張るわ」
「ありがとう。助かるよ」
「助かっているのは私の方よ?
いつもありがとう」
水道は完成しても、水田でやることは山のように残っている。
そして大きな水田を完成させても、イネが育たなかったら意味がない。
だから……まずは実験用に、数株の苗だけを守り切れるような小さな水田を作ることを思い付いた。
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