14. 帝国の技術
水田作りを始めてから十日ほどが経った日の夕方。
今日の作業を終えて家に入ると、ある物が目に入った。
ソフィアも気付いたらしく、足を止めてソレをまじまじと眺めている。
金属らしく銀色に輝く、変わった形のものがいくつも詰まっている箱の中身は、僕にとってなじみ深いものだ。
蛇口がようやく届いたらしい。
「変わった形ね。何かしら?」
「前に言っていた蛇口だよ。
ここを回すと、水を止めたり出したり出来るんだ」
これを水源から続く管につなげば、いつでも水が手に入るようになる。
生活が便利になれば他のことをする余裕も生まれることになるから、その分だけ農業の人手を確保することにも繋がるはずだ。
簡単に水が手に入るようになれば、僕がここに居る意味は少なくなるかもしれない。
しかし、僕が何をしているのかは王都中に知れ渡っているようで、今日も何度も労いや感謝の言葉をかけられている。
だから無碍に扱われることはないと思う。
「そんなことが出来るのね。
不思議だわ……」
「最初は王都の人たちが自由に使えるような場所に付けようと思っているんだけど、良いかな?」
「ええ、もちろん」
水田は苗が育たないと何も植えることが出来ない。
だから、今は人手を増やすために王都の人達の生活を便利にすることを優先したい。
「ありがとう。
明日はソフィアの力も借りたいから、手伝ってほしい」
「分かったわ。具体的にどんなことをするのかしら?」
「この管を付けたいから、温める役目をお願いしたい。
この管があれば、蛇口はこんな感じに回すだけで付くから」
「こんなに滑らかに回せるなんて、流石は帝国の技術ね。
私の土魔法でも同じものを作れるように頑張ってみるわ」
蛇口と一緒に届いていた金属の管は、両端にネジが作られていて簡単に組み立てられるようになっている。
地面に埋める部分は人の力では回せないからネジではないけど、あの大きな管も回せるようになったら手間を減らせそうだ。
「作れたとしても、回せなかったら意味がないんだ。
だから、先に回す方法を考えよう」
「考えていなかったわ。あんなに大きな塊、動かせないものね……」
無理だったら、今まで通りにゴムを使えばいいだけだ。
昨日は水源のすぐ近くに栓を作って、今は水を止めている。
そのせいで管にはかなりの力がかかっているはずだが、今のところ水が漏れたりはしていない。
だから、今までのやり方でも問題は無いはずだ。
「僕は魔法で出来ないか試してみるよ」
「水魔法で物を運べるのだから、レインならできると思うの。
楽しみにしているね」
「あまり期待されると緊張するな……」
話をしながらダイニングに入り、昨日までと同じように席に座る。
表向きにはソフィアが僕の案内役になっているらしく、今日も僕の向かいにはソフィアが座った。
ちなみに、左隣には国王であるソフィアの父が座っており、右隣はソフィアの兄という状況。
王族に耐性が無いから最初は卒倒しそうになったものだけど、良い意味で王族らしくない雰囲気だから、気絶せずに済んでいる。
ちなみに、食事は言われていた通り、かなり質素なものが並んでいる。
乾き切ってしまってパリパリとした食感の野菜に、同じような状態の肉。それから炊き立てのコメ……これはご飯と呼ぶこともあるけど、美味しいと言えるものではない。
しかし味付けはしっかりされているから、ご飯と一緒に口に運ぶとちょうどいい。
僕が味付けをしたら、きっとサボテンを齧るほうがマシだと思える料理が出来上がるだろう。
もっとも、僕が来る前はコメすらもコメのまま食べていたというから、その時は血の気が引いた。
冷や汗をダラダラと出しながらも教えていなければ、きっと今は歯が欠けている。
……そんな経緯があって僕にとっては満足出来る食事を終えたら、水魔法で体を洗ってからベッドに入る。
すると、思っているよりも疲れていたみたいで、すぐに瞼が落ちてきた。
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