11. まずは水を運びます

 ソフィアに案内されて夕食の場所――ダイニングに着くと、既に色とりどりの料理が並んでいた。


「いつもはこんなに豪華じゃないけど、食材を買ってきたばかりだから食べられるの」


「そうなんだ。聞いていた話と違ったから、驚いたよ。

 こんなに豪華にしても大丈夫なのかな?」


「野菜は長持ちしないから、使わないといけないの。

 だから、買い出しに行った日は贅沢になるわ」


 もっと質素な料理を想像していたから、良い意味で裏切られた気分だ。

 でも、農業の計画が上手く出来れば、こんな食事が毎日出てくるようになりそうだ。


 だから頑張って成功させたい。


「よし、全員集まったようだ。

 いただきます」


「「いただきます」」


 ここでの食事はソフィア達王家一家と来客である僕も同席している。

 使用人達もテーブルを分けているとはいえ、同席している光景は他の貴族の屋敷では見ることが出来ないから、なんだか新鮮だ。


「レイン君、水の場所は把握出来たか?」


「はい。あとは水を流す場所を作れば水田に取り掛かれます。

 こんな感じで考えているんですけど、作っても大丈夫ですか?」


 地下水をくみ上げるのは、かなり労力がかかる事になる。

 だから、この辺りよりも高さのある場所の地下水をくみ上げる井戸を作って、そこから帝都にある水道と同じような管を通すことを考えている。


 もちろん分かりやすいように絵も描いているから、用意していた紙を見せる。


「この管は何で作るのかね?」


「ソフィアの魔法と僕の魔法を組み合わせて作ろうと思っています。

 材料は砂とゴムがあれば問題ありません」


 溶かして固めた砂を使った物は帝国にもあるけど、あれは温度差で割れやすい代物だった。

 だから、これから作る管はあまり長くないものを繋ぎ合わせて対策しようと思っている。


 ゴムは帝国で大量に作られているから、入手も難しく無いだろう。


「砂なら山のようにあるから、気にせず使ってもらって構わない。

 ゴムも在庫があるから、明日の朝にでも案内しよう」


「ありがとうございます」


 材料の心配は無さそうだ。

 問題は、砂を溶かして作った管がどれくらいの力に耐えられるかだ。


 帝国の水道が整備され始めた時は、管が破裂することが頻繁に起きていたという。

 水魔法を使っているから分かるけど、魔法の影響が無い水でもかなりの力があるんだよね。


「地面の中に埋めるのも、邪魔にならなくて良さそうだ。

 人手が必要なら、声をかけてくれ。いくらでも手を貸そう」


「助かります。

 では、明日は試作を頑張ってみます」


「感謝する。

 ソフィア、レイン君に迷惑はかけないように」


「分かっているわ」


 そんな会話を聞きながら、肉をかじる。

 味付けはシンプルでも、どの料理もかなり美味しかった。


 明日からは質素になるというけど、これなら心配の必要も無さそうだった。




   ◇




 翌朝、朝食を終えた僕はソフィアと共に上流にあるオアシスに来ていた。

 砂嵐は止んでいて、強い日差しが降り注いでいるから、日よけ代わりに白く濁らせた水魔法で日差しを遮る。


「多分、ここから……ここくらいの長さの管を埋めたら、水が勝手に出てくると思う」


「分かったわ。

 私は砂を溶かせばいいのよね?」


「うん。

 準備は大丈夫だから、火魔法をお願い」


 必要な分の砂とソフィアを水魔法で囲って、火魔法を使ってもらう。

 すると、赤い光を放つ溶岩のような砂が出来上がる。


「これを型に入れて……」


 管の形は僕が水魔法で作ってあるから、そこに水魔法を使って溶けている砂を流し込んでいく。

 水は蒸発させなければいくらでも熱くなるから、溶けている砂を冷やさずに運ぶことだって出来る。


 水は一度作ってしまえば、いくらでも動かせるから難しい作業ではない。


「冷やすから少し離れてね」


「分かったわ」


 魔力を少しだけ込めて水を氷に帰ると、パキパキという音を立てて砂が固まる。

 そして十分に冷えたところで氷を水に戻すと、管は割れて崩れてしまった。


「お皿と同じで、急に冷やすと割れてしまうみたいね。

 次はゆっくり冷やしてみましょう」


「ごめん、ありがとう」


 ソフィアのアドバイス通りに、もう一度同じ作業をする。

 待ち時間がもったいないから、水を追加して管を同時に作っていく。


「とりあえず、これくらいあれば足りそうだね」


「私には地下水の場所が分からないから、レインに任せるわ」


「分かったよ。ありがとう」


 言葉を交わしながら、水魔法で作り出した日陰の中で休む。

 この日陰が無かったら、僕は一時間くらいで倒れてしまっているほどの暑さだ。


「そろそろ冷えたと思う」


「一つだけ取り出してみましょう」


「うん。

 ……今度は成功だね」


 試しに内側から水魔法で押してみたけど、壊れる気配は無い。

 壁を厚く作っているお陰だ。


 他の管も問題無さそうだったから、持って来ているゴムの塊を溶かして、管と管の間に流し込む。

 そして冷えるのを待ってから、もう一度水を流してみたんだけど……。


「隙間があるのね……。

 もしかして、冷える時に縮んでいるのかしら?」


「そうかもしれない……」


 管の方は、上手くつなぎ合わせられるように、片方の口を大きく作っている。

 もしかしたら、管そのものを事前に熱してから嵌めこめば、自然と縮んでゴムを締め付けることになるかもしれな。


「こっちの口が大きい方の管を温めてから、ゴムを流し込んでみよう」


「分かったわ」


 そうして二回目の挑戦では上手く管が繋がって、いくら引っ張っても、水魔法の力を使って引き離そうとしても、繋がっている部分は微動だにしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る