10. 資源を使えるので
「コメというのは、水が豊富に無いと作れないという、帝国の作物のことで合っているかな?」
「はい、そのコメです」
コメは水で満たした水田と土、そして昼間の日差しがあれば作ることが出来る。
しかし、大量の水が必要という情報だけが一人歩きしているようで、ソフィアの両親は首を
日差しが十分にあって水田も満たせるこの場所だが、問題が無いわけではない。
乾燥はコメの保管には適しているが、育てているコメ……イネが枯れる原因になる。
屋根が全てガラスの建物を作れば乾燥の対策は出来はずだけど、大きなガラスは作るのが難しく高級品だから、何か対策を考えないといけない。
「本当に作れるのかね?」
「はい。ただし、農業に適した土の用意と、ガラスだけの屋根がある大きな建物を作る必要があると思います」
「なるほど。
それだけで農業が出来るようになるのなら、こちらも全力を尽くそう。
レイン殿、我が国の未来は貴殿に託した」
「はい、必ず成し遂げて見せます」
そう口にしてから、差し出されている手を握り返す。
ただの口約束に過ぎないけど、これは信頼してくれている証だ。
だから、期待を裏切らないように頑張らないといけない。
今日は砂嵐が止む気配が無いから、計画を練るだけで終わりそうだけど……。
なんて思いながら、促されるままに会議室を後にする。
夕食までは時間があるから、貸して貰えている部屋に籠って水脈の流れを確認することに決める。
ソフィアには悪い気もするけど、集中しないと全ては分からないから、しばらく一人で部屋に籠るつもりだ、
そもそも、応接室であってもソフィア密室で二人きりになるのは良くないだろうから、入らないつもりだけどね。
「ソフィア、また後で」
「ええ。何か困ったら、いつでも頼って欲しいわ」
「ありがとう」
手短に言葉を交わしていると、別のところから使用人とソフィアの父との会話が聞こえてくる。
「陛下、お疲れさまです。
遊牧民から報告があり、ガラスに用いられる石英の鉱脈が見つかりました」
この言葉で初めて分かったけど、どうやらソフィアの父は国王らしい。
つまり、ソフィアは王女様ということになる。
……さっきの勘違いがそのままだったら、外交問題に発展していたと思うと冷や汗が出てくる。
乾燥のお陰ですぐに乾くが。
そうして嫌な感覚を覚えながらも部屋に入った僕は、早速水の動きを探り始める。
ここ王都には二つの大きな水脈が流れていて、どちらも帝国のある方が下流になっている。
上流の方は、この部屋の窓からでも見えるけど、大きな山がそびえ立っている。
あの山は帝国とは国境を接していない国……ここデザイア王国の西に接する国の海からの湿気を吸い込んでいるようで、頂上近くは真っ白な雪に覆われている。
水脈の出所は、おそらくあの山だろう。
かなり離れているけど、地下を流れているお陰で蒸発せずに済んでいる様子だ。
そして、この王都よりも北……帝国から離れる方向にもオアシスがある。
少し土地が高くなっていて移動は大変そうだけど、水を簡単に引き込むことが出来そうだ。
それにしても、空気の中の水が殆ど無いお陰で、水の気配が帝国に居た時よりも掴みやすい。
だから、気配を探りながら簡単な地図を描くことも出来た。
「よし、完成」
しかし、思っていたよりも時間が過ぎていたらしく、外を見るとすっかり暗くなっている。
部屋が明るいのは、誰かが火を灯してくれたから……ではなく、天井に埋め込まれている石が光を放っているお陰だった。
こんな石は帝国で見たことが無いから、デザイア王国にしか存在しないと思う。
わざわざ火を灯さなくても済むのは助かるけど、ずっと光っているのは眠る時に邪魔になりそうだ。
この部屋は天蓋付きのベッドだから問題無いけど。
そんなことを考えながら、ソフィアの部屋に向かう。
国が貧しいせいで、王家なのに使用人の数はかなり少ないから、誰かを連絡手段にすることなんて出来ないのだ。
「ソフィア、夕食について聞きたいんだけど、良いかな?」
「ええ、もちろんよ。
いつも通りなら、あと五分くらいで出来るはずよ」
「分かった、ありがとう」
「それまで私の部屋で待っていても良いよ?
お話したいことも沢山あるから」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
扉を完全に閉めてしまうと、また勘違いされかねない。
だから手のひらの幅くらいだけ開けておく。
それから、ソフィアが腰掛けたソファーの隣に腰を下ろした。
「まだ話していなかったのだけど、私の家族について話しておきたいの」
「王家なんだよね?」
「うん。流石に雰囲気で分かるよね……。
私も政治には関わっているから、ある程度のことなら手伝えるわ。例えば、今日見つかった水晶を自由に使う事も出来るわ」
「そうなんだ。
ガラスを沢山作れるなら、活用したい。でも、交易の貴重な材料だよね?」
「資源はいつか無くなってしまうものだから、将来のために使いたいわ」
「確かに、作物は永遠に無くならないから、ちょうどいいかもしれない……。
でも、本当に僕が自由に使って良いのかな?」
「ええ、もちろん。
私が保証するわ!」
こうしてガラスを作れることになった。
しかし、大きなガラスを作るのは難しいから、上手く出来る方法を探らないといけない。
「ありがとう。心強いよ」
「お礼を言いたいのは私の方だわ。
ここまで一緒に来てくれて、本当にありがとう」
ちょうど夕食の時間になったのか、立ち上がってから手を差し出してくるソフィア。
僕も立ち上がってから、その手を握りしめた。
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