第1章 砂漠の国で農業はじめます
4. 砂漠の国に出発します
「そういえば、自己紹介がまだだったね」
「そうだったわね。私はソフィアって言うの。よろしくね、レイン君」
今はソフィアと名乗った少女の馬車が待っているという場所に向かっている最中だ。
どうやら僕の悪名は帝都中に広がっているらしく、道行く人から何度も暴言を吐かれる羽目になった。
噂の出所は調べるまでもなくアルガード達だと分かるけど、彼らは詐欺罪で指名手配されている状況だから、仕返しをせずとも不幸になること間違いなしだ。
「地獄へ落ちろ!」
そんな罵声と共に飛んできた汚物は、水魔法で生み出した氷の壁で防げるけど、気分が良いとは言えない。
「また来たわね……」
「どこかの冒険者パーティーが噂を流してくれたから仕方ないよ」
「そうね。帝国民の質がよく分かって助かるわ」
僕はもう諦めているから、罵声は全て無視している。
水の気配に敏感なお陰で、卵や汚物といった水分を含んでいる物を投げられても気付けるから、視線を合わせる必要も無い。
ただ、三食家付きの待遇を示してくれたソフィアを罵声に晒している状況は本当に申し訳ないが、本人は気にしていないらしい。
そうして歩き続けること五分。
僕の視界には、よく知る人物の姿が映っていた。
「うわぁ……一番会いたくない奴らが居るよ」
「本当ね。騎士団に場所を知らせたら、仕返しにならないかしら?」
「下手に攻撃されると嫌だから、先に捕らえてもらおう」
騎士団は国防と治安維持を任されている皇帝陛下直属の組織で、犯罪が起きた時は騎士団を呼べば大抵は解決してもらえる。
さらに指名手配犯の居場所を知らせて、罪人の確保に繋がれば、報奨金を貰う事も出来る。
だから、あまり離れていないところにある詰め所へと走って、詐欺罪で指名手配されているアルガード達の居場所を知らせに向かった。
それから間もなく、アルガード達は捕らえられた。
僕の目の前で。
「レイン、助けてくれ! お前が真犯人だと言えば俺達は助かるんだ!」
「ねぇ、私達なかまでしょ!? 男なら助けなさいよ!」
「仲間を売るなんて、卑怯者のすることだろ! 絶対に許さないからな!」
揃ってギャーギャーと喚いているが、僕がされたことよりもマシだと思う。
彼らは人を騙して陥れたけど、僕は真実を告げただけだ。
町中に悪名を広めるようなこともしていない。
仕返しというには甘すぎるくらいだ。
「仲間を売っておいて、今更助けて欲しいだなんて、虫が良すぎるよ。
僕だって人間だ。お前達を殺したいくらい恨んでいることを忘れるなよ」
言われっぱなしなのは気分が良くないから、それだけ言い捨てる。
馬鹿な彼らでも僕の言葉の意味は理解できたようで、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
「離せ! あいつをぶん殴らないと気が済まない!」
「大人しくしろ。
魔法を使おうとしても無駄だぞ!」
騎士に怒鳴られてようやく静かになった罪人たちから目を離して、僕はソフィアに向き直る。
「巻き込んで申し訳ない。案内の続きをお願いしても良いかな?」
「ええ、もちろん!」
再び歩き出すと、アンナが大声で泣き始める声が聞こえて来た。
だが、裏切者に貸す耳は無いから、無視して足を進めた。
「お待たせ。荷台は荷物があって危ないから、御者台に乗ってね」
「分かったよ」
ソフィアは見た目からして貴族の令嬢だと思っていたんだけど、違ったらしい。
貴族なら必ず伴っているはずの護衛の姿が無ければ、乗ってきたという馬車も貧乏な行商人が使うような質の低いものだ。
そして、この馬車を引いているのは馬じゃない。
背中に起きな
ちなみに、町の外には動物も魔物も跋扈していて、すごく危険だ。
動物は何もしなければ攻撃してこないけど、突然走り回ることがあるから、毎年何人もの怪我人が出ている。
打ち所が悪いと、そのまま死んでしまうこともあるから、気を付けないといけない。
しかし、それ以上に魔物は厄介だ。魔物は人を積極的に襲ってくるから、毎年何十人と殺されている。
街の外では魔法や剣の腕に自信がある人でも複数人で行動するのが基本で、僕のような軟弱者は冒険者を護衛として雇うことが殆どだ。
ソフィアも、まずは冒険者を探すことから始めるに違いないだろう。
「変わった馬だね……」
「ラクダっていうの。デザイアでは馬だとすぐに死んでしまうから、その代わりだと思ってくれれば良いわ」
そう口にしながら近くの柵から縄を外すソフィア。
手慣れているようで、あっという間に作業を終えて御者台に飛び乗ってきた。
動きが令嬢らしくないせいで、思い描いていた姿がガラガラと音を立てて崩れていく。
冒険者をしていた僕にとっては、お淑やかな人よりも接しやすくて助かるんだけど、違和感がすごいな……。
「それじゃあ、出発するわよ!」
「よろしくお願いします!」
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