水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました

水空 葵

序章 水魔法使いは国を出ます

1. お荷物は追放されました

「レイン、役に立たないお前は要らない。だから、今日から仲間じゃない。

 分かりやすく言えば、俺達のパーティーから追放させてもらう!」


「飲み水はその辺の川ですぐに汲めるし、前より力も増えたから持ち歩くことも出来るの」


「魔物を倒せない上に荷物運びしか出来ないお前は必要無いんだ。

 お前に払う分け前も無い。分かってくれるよな?」


 ある日突然、仲間から衝撃の言葉を告げられた僕は言葉を失った。

 今言われたことは事実だから、反論の言葉なんて欠片も出てこない。


 しかし、このまま追放されたら生活出来なくなってしまうから、なんとか留まれるようにと口を開く。


「急に追放だなんて酷すぎる!

 このまま野垂れ死ねと言っているようなものじゃないか……!」


「そう思われても仕方ないかもしれないけど、水ならそこら中にあるの。

 レインに報酬を分けるよりも、武器を強くするために使った方が将来のためになるって、皆で話し合ったのよ」


「せめてもの償いに、手切れ金は渡しておくよ。これで野垂れ死にも無いだろう。

 後で確認しておいてくれ」


「レインなら次の仕事もすぐ見つかるわ」


 そんな言葉と共に、無理やり重たい麻袋を握らされた。

 ずっしりとした重みは、言葉の通りかなりのお金が入っているように思える。


「分かった。もう出ていくよ」


 最初に追放を告げてきたアルガードも、申し訳なさそうにしているアンナも、手切れ金を渡してきたフィリップスも、僕を蔑むような視線を送ってきている。


 使い切るまでに他のパーティーに入れてもらえたら、冒険者の僕でも生きていけるに違いない。こんな薄情者の言いなりになるのは屈辱だけど、そうしないと生きていけない。

 だから、大人しく出て行った方が身のためだと思った。


 悔しいし腹立たしいけど、今の僕にはどうにも出来ない。

 そう思ったら余計に悔しくて、三人に気付かれないように歯を食いしばる。


 一ヶ月前には家からも追い出されてしまって住むところが無いから、外に出てすぐ今日泊まる場所を探すことに決めた。




 字が読めなくて騙されるような目には遭わないと思うけど、水の都・水の国などとうたっているウォーマス帝国では僕みたいな水魔法使いは求められない。

 だから……一人では冒険者ギルドの依頼をこなして、お金を稼ぐという方法も使えないと思う。


 冒険者を続けられなと分かり切っている今なら、他に良い仕事を見つけないと生きていくことが出来なくなるに違いない。

 一言でいえば、お先真っ暗。


 しかし、立ち止まっていては何も変わらない。


「さようなら」


「おう、もう二度と来るなよ」


 一言だけ行ってから、昨日から止まっている宿を後にする。

 それから、すぐに仕事探しを始ることに決めた。


「やっと邪魔な男が消えたね! 今日は盛大にお祝いしましょう!」


 ……今すぐに三人を殴り飛ばしたい。




   ◇




「仕事は見つかったから、ひとまず安心かな……」


 あの後、日が暮れるまでの間に商業ギルドの仕事を見つけることが出来た僕は、ようやく宿の門をくぐることが出来た。

 商業ギルドというのは、商人が集まって作られているギルドのことで、主に商品の流通や価格の管理を行っているらしい。


 明日から働かせてもらうのは、その商品の流通を管理している部門らしい。

 この帝国では文字の読み書きが出来る人は殆ど居ないから、読み書きが出来る僕は大歓迎だと言われた。


さっきまで入っていた冒険者パーティーでも、文字を読み書き出来るのは僕だけだったのがその証拠だ。

依頼は掲示板から選んで受けるけど、他の雑用含めて全て僕の仕事だったから、あのパーティーの行く末が少しだけ気になる。


惨めな状態になってくれたら少しは鬱憤を晴らせそうだけど、こんな風に他人の不幸を望んだのは初めてだから、嫌な汗が出てしまった。


「性格、悪くなったのかな……」


「おーい、何を悩んでるんだ? 受付前でボーっと立たれても困るよ!

泊まるのか? 帰るのか?」


「ご、ごごめんなさい!

 泊まります、泊まらせて頂きます!」


 うっかり独り言を漏らした時、ここが受付前だと気付いた。

 おかしいな。さっきまで何も無かったはずなんだけど?


 ……なんて思ったけど、どうやら無意識のままここまで歩いていたらしい。

 考え事をしていたからかな。


「今日のお代は五千ダルだ」


 五千ダルと言えば、帝都の宿代の相場ちょうどだ。

 この麻袋の中身があれば、余裕でお釣りが来ると思う。


 けれども、袋の口が固くて開けられないから、諦めて財布から


「これで大丈夫ですか?」


 でも、遠慮するのも悪いから、財布から大銀貨五枚を取り出して手渡した。


「はい、ちょうどだ。毎度あり。

 これが部屋の鍵だから、無くさないように頼むよ」


「分かりました! 本当にありがとうございます!」


 そうして僕は宿の部屋に入ることが出来た。

 麻袋に入っているお金は、口が固く結ばれていて手ではほどけなかったから、テーブルの上に置いてからナイフで破っていく。


 すると、一枚で一ダルの価値しかない小銅貨だけが音を立てて崩れていく。

 もしかしたら奥に隠れているのかもしれないと思って、満遍まんべんなく見てみた。


 それでも、小銅貨だけしか目に入らなかった。


 数えてみると、全部で五百枚ほど。宿代も払えない額だ。

 この時ようやく、僕は嵌められたのだと理解した。


 怒りに身を任せて、元仲間達に問い詰めに行くことも考えた。

 しかし下手なことをして投獄されるのは御免だから、冷静になるためにも今日は眠ることに決めて、ベッドに入って目を閉じた。

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