水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました

水空 葵

序章 水魔法使いは国を出ます

1. お荷物は追放されました

「役に立たないお前は要らない。だから、今日から仲間じゃない。

 分かりやすく言えば、俺達のパーティーから追放させてもらう!」


 ある日突然、仲間から衝撃の言葉を告げられた僕――レインは、言葉を失った。


 確かに攻撃魔法は苦手で、魔物を直接倒したことは無かった。

 それでも仲間として、得意の水魔法で飲み水を生み出したり、大量の荷物を水魔法で運んだりして役に立っていたはずだ。


「あんまりだ! 僕は弱いなりにも今まで仲間として頑張ってきた。

 それなのに、理由もなしに追放だなんて、酷すぎる!」


「そうかもしれないけど、水ならそこら中にあるの。

 レインに報酬を分けるよりも、武器を強くするために使った方が将来のためになるって、皆で話し合ったのよ」


「せめてもの償いに、手切れ金は渡しておくよ。

 後で確認しておいてくれ」


 そんな言葉と共に、無理やり重たい麻袋を握らされた。

 ずっしりとした重みは、かなりのお金が入っているように思える。


 これだけあれば、一年は生活していけると思う。

 それまでに他のパーティーに入れてもらえたら、冒険者の僕でも行けていけるに違いない。


「分かった。もう出ていくよ」


 最初に追放を告げてきたアルガードも、申し訳なさそうにしているアンナも、手切れ金を渡してきたフィリップスも、僕を蔑むような視線を送ってきている。

 だから、大人しく出て行った方が身のためだと、直感で思った。


 一ヶ月前には家からも追い出されてしまって住むところが無いから、まずは今日泊まる場所を探さないといけない。




 家がクロウディー男爵家という貴族だったから、字が読めなくて騙されるような目には遭わないと思うけど、水の都・水の国などとうたっているウォーマス帝国では僕みたいな水魔法使いは求められない。

 だから……一人では冒険者ギルドの依頼をこなして、お金を稼ぐという方法も使えないと思う。


 冒険者を続けられなと分かり切っている今なら、他に良い仕事を見つけないと生きていくことが出来なくなるに違いない。

 一言でいえば、お先真っ暗。


 それが今この瞬間からの僕なのだ。


「さようなら」


「おう、もう二度と来るなよ」


 一言だけ行ってから、昨日から止まっている宿を後にする。

 それから、すぐに仕事探しを始ることに決めた。


「やっと邪魔な男が消えたね! 今日は盛大にお祝いしましょう!」


 ……もちろん、腹が立たなかった訳じゃない。




   ◇




「仕事は見つかったから、ひとまず安心かな……」


 あの後、日が暮れるまでの間に商業ギルドの仕事を見つけることが出来た僕は、ようやく宿の門をくぐることが出来た。

 商業ギルドというのは、商人が集まって作られているギルドのことで、主に商品の流通や価格の管理を行っているらしい。


 明日から働かせてもらうのは、その商品の流通を管理している部門らしい。

 この帝国では文字の読み書きが出来る人は殆ど居ないから、読み書きが出来る僕は大歓迎だと言われた。


さっきまで入っていた冒険者パーティーでも、文字を読み書き出来るのは僕だけだったのがその証拠だ。

依頼は掲示板から選んで受けるけど、他の雑用含めて全て僕の仕事だったから、あのパーティーの行く末が少しだけ気になる。


惨めな状態になってくれたら少しは鬱憤を晴らせそうだけど、こんな風に他人の不幸を望んだのは初めてだから、嫌な汗が出てしまった。


「性格、悪くなったのかな……」


「おーい、何を悩んでるんだ? 受付前でボーっと立たれても困るよ!

泊まるのか? 帰るのか?」


「ご、ごごめんなさい!

 泊まります、泊まらせて頂きます!」


 うっかり独り言を漏らした時、ここが受付前だと気付いた。

 おかしいな。さっきまで何も無かったはずなんだけど?


 ……なんて思ったけど、どうやら無意識のままここまで歩いていたらしい。

 考え事をしていたからかな。


「今日のお代は五千ダルだ」


 五百ダルと言えば、帝都の宿代の相場ちょうどだ。

 この麻袋の中身があれば、余裕でお釣りが来ると思う。


 けれども、袋の口が固くて開けられないから、諦めて財布から


「これで大丈夫ですか?」


 でも、遠慮するのも悪いから、財布から大銀貨五枚を取り出して手渡した。


「はい、ちょうどだ。毎度あり。

 これが部屋の鍵だから、無くさないように頼むよ」


「分かりました! 本当にありがとうございます!」


 そうして僕は宿の部屋に入ることが出来た。

 麻袋に入っているお金は、口が固く結ばれていて手ではほどけなかったから、テーブルの上に置いてからナイフで破っていく。


 すると、一枚で一ダルの価値しかない小銅貨だけが音を立てて崩れていく。

 もしかしたら奥に隠れているのかもしれないと思って、満遍まんべんなく見てみた。


 それでも、小銅貨だけしか目に入らなかった。


 数えてみると、全部で五百枚ほど。宿代も払えない額だ。

 この時ようやく、僕は嵌められたのだと理解した。


 怒りに身を任せて、元仲間達に問い詰めに行くことも考えた。

 しかし下手なことをして投獄されるのは御免だから、冷静になるためにも今日は眠ることに決めて、ベッドに入って目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る