迷宮伝説の占い師~20代半ばで自給自足生活しようと思ったら、異世界で伝説の占い師と評された俺~
イレヴンス
第1話 異世界占いなんてやるんじゃなかった(転)
季節は春の半ば。人里から離れたログハウスは今、異様な空気に包まれていた。
状況は切迫していた。一刻の猶予もないっていうのは、こういう事を言うんだろう。手が震える。こんなことなら、テキトーな事を言うんじゃなかった。
俺が、力になれるかもなんてっ……!!
カードを持つ手にだけマグニチュード7.0が発生してるんですかぁ?って感じにガッタガッタ震えてる。怖いのに笑えてきた。
その俺の歪んだ笑みを叩き潰すように、包帯を巻かれた傷だらけの手が大きな一枚板のテーブルに叩きつけられた。衝撃でテーブルに広げられたでかい羊皮紙の地図が跳ね上がる。
「早くしろッッ!!こ、こうしてる間にも、ネビルが……!仲間がッ!死にかけてるかもしれないんだぞ!!」
大柄で金髪の剣士ザインが、血走った目で俺を怒鳴りつけてくる。落ち着いてる時は騎士風でイケメンだったくせに、台無しだ。
「ああうるせえよ!こういうのは冷静平静が大事なんだよ!!焦ったままで上手く正しい答えなんか出せるか!!黙ってろ!仲間の命が惜しかったらな!」
……黙った。
心の中でだけ言うつもりだった思考は、そのまま口から出ていたらしい。やっちまったぁ……またかよ。
あー、だけど、もういい。もう知らねえ。どうでもいい。どこの馬の骨とも知らないコイツの仲間の命に、なんで俺が責任を感じなきゃならない?
”先生”も言ってただろ?他人はあくまで他人。自分の延長線上にはいない。境界線を引け。自分と、この赤の他人達の間に、決定的な一線を。
《こいつらの悲劇は、俺には何の関係もない。責任もない》
一線が引けた途端に加熱した脳がふっと緩んだ。
さあ、呼吸を整えろ。脳に液体窒素ぶっかけろ。クールに状況を把握しろ。
テーブルに広げられた地図は、いわゆるダンジョンの地図だ。そのどこかに、この金髪剣士の仲間がいる。はぐれた時点で怪我をしていたはずの連中だ。数は4人。
そいつらは固まってるかもしれないし、バラバラに逃げたかもしれない。その位置と状態を特定する必要がある。今すぐに。
『できるのか?』
ふと湧いた疑問を握りつぶす。できようができまいが、知った事か。合ってるか合ってないかだって、保証なんかできっこない。どうしたらできるかだって、初めてやるんだから分かりっこない。
でもそんな無駄な思考はいらない。スイッチ切るぞ。ぶつん!
……よし、こういう時に細かく聞いてたんじゃ多分時間の無駄だ。YES or NOだけで速攻で絞り込もう。
チャネリング先は……「この状況を正確に把握できるあっちの世界の誰か」だ。それが誰かなんて構っていられない。
YES・NOカードを手に取り、イメージの中で自分の首の裏から繋がっている潜在意識ネットワークを通じて、「知ってる誰か」に無理やり繋ぐ。
「あなたはこのダンジョンの状況を全て理解し、監視する事ができる存在か?」
そう呟きながら、脱力してカードを一枚表にする。そこに書かれた文字は
[YES]
――繋がった。今、俺は異世界の何かと交信している。という事にして進めるしかない。疑うな。そんなどうでも良い事を考えずに、質問だけ考えろ。
「このダンジョンに今ここにいる男、ザインのパーティーメンバーが4名いますか?」
NOの可能性も十分あるだろうと思いながら、またカードを1枚表にする。
[YES]
少なくともダンジョンから出た連中も、ダンジョンに喰われた連中もいないって事になるのか?それも今はどうでもいいな。
「4名の居場所を教えてください」
と、言ってはみたが、どう絞り込んだらいいんだ?良い方法は……なんて考える時間なんてあるわけもない。なら原始的な方法にする。とにかくYES・NOだけで無理やりでも絞り込むぞ。
「このマップの左半分にメンバーはいるか?」
[NO]
「マップ右半分の上半分にメンバーはいるか?」
[YES]
「よし、更に残ったエリアの左半分にメンバーはいるか?」
[NO]
「なら、この辺りに全員いるのか。良かった、バラバラに逃げたわけじゃないらしい。確か、メンバーは全員地図持ってるんだろ?この辺りだったら、どこにいると思う?」
地図は広く、ダンジョンマップは複雑だ。速攻で決めるなら、一度はこいつと仲間の経験に賭けた方が早い気がする。当たれば、これ以上細かく絞り込むより早い。
ザインは俺の指したエリアに喰いつくように視線を向けた。
「この辺りか……?ここなら……ここ……いや、ダメだ。俺がいない。残ったメンバーは全員後衛なんだ。狭い通路でモンスターを一匹一匹処理するのは難しい。逃げ道になる、鍵のかけられる扉があって、もう片方の通路が比較的狭い……ここだ。ここはどうだ!?」
ザインが俺に振り向いた瞬間に汗が飛んできて、思わず手でブロックした。必死だな。そりゃそうか、仲間の生死がかかってるんだもんな。なんて事を思いながらも手は止めない。
「ここに、ザインのチームメンバーは4人揃っているか?」
[YES]
ぶわっと胸から熱気が上がって脳を焼く。やった!!手ごたえありだ!
「よし!ここだ!全員体調に問題は無いか?」
[NO]
「全員生きているか?」
[YES]
「……怪我はしてるかもしれないけど、全員生きてるみたいだ。早く行って!その救急BOXは持ってっていいから!」
怒鳴るように剣士を勝手口に押しやる。開いた勝手口の向こうには、灰色のレンガでできた通路が続いているのが見える。非現実的だけど、この勝手口は異世界ダンジョンに続いている。
俺はザインに備え付けの救急BOXを押し付けて、勝手口に押し出した。頼まれた事はやったけど、責任なんて取りたくない。もし当たってなかったらどうするかなんて、考えたくもない。
と、俺が押す手が、掴まれた。嫌な予感が背筋を通って、脂汗が一気に噴き出す。
こいつ、まさか俺を巻き込むのかよ!?
「お前も来いッッ!!!」
言うが早いか、ザインはドアの向こうに向かって走り出した。不意を突かれて抵抗する間も無いまま、体が浮く。なんてバカ力だ!
「や、め、ばっ!離せ!!」
扉を抜けたら俺はどうなるんだ?異世界に行って、戻れなくなるのか!?冗談じゃない……冗談じゃないぞ!!
俺の自給自足計画が!!ねんがんのスローライフがぁぁぁぁあああああああああ!!
引きずられるようにドアをくぐった瞬間、「あっ、まずっ」という誰かの声が聞こえたような気がした。
これが、俺の始まりの物語。その中でも、”起承転結"で言うなら"転"の物語だった。
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