第42話 おーい、こっちの海には白ゴジが出るぞ!

「ハイジ~、ご飯にしよ~!」


 サヤカの呼びかけでハイジが甲板に戻ってくる。

 ハイジの食事中は俺がアンジーに乗って散歩を続ける。


「ボス、進行方向10km先に5隻の漁船らしい姿を確認。衛星画像では、大和のものとは思えません。」

「EEZ内なんだな。」

「GPSでも照合できています。」

「了解。俺が接近して確認するから少し離れて待機。」

「了解!」


 俺はアンジーを含めてシールドを展開して不審船に近づく。

 ヨーゼフとネロには、水面に出ないように指示をした。


 俺たちが近づくと、不審船は船首に取り付けられた20mm機関砲を撃ってきた。

 ダダダダダッ!

 何十発もの弾薬がシールドにあたって破裂していく。

 俺は機関砲を2500度に過熱してやった。

 鉄は1550度くらいで融解するはずだ。

 他の乗組員も船室から自動小銃を持ち出して撃ってくる。


 俺はアンジーの頭から先頭の船の甲板に飛び移った。


「大和海軍のシンドウだ。この場所は大和国のEEZ内である。お前たちはここで何をしている。」

「うるさい!やっちまえ!」


 自動小銃やナイフによる攻撃を受けたが、俺はそれらを無視して操舵室に入り、GPSなどの記録を確認した。


「お前たちの違法操業は確認した。また、私への攻撃行為に対し、自衛権を行使したうえで大和へ連行する。」


 俺のゴーグルにはカメラとマイクが内蔵されており、今回の出来事は全て記録されている。


 俺は全ての武器を無力化し、オトヒメを呼んで全員を拘束した。

 他の4隻については、ヨーゼフたちにスクリューを破壊させている。

 動けなくなった4隻に対して、同じように問いかけと記録を繰り返して、船をロープで数珠つなぎにして海上保安庁まで曳航していった。


 これらの資料は外務局経由でコークリに通達された。

 

 コークリは不当逮捕だとして抗議してきたが、機関砲による発砲とGPSの画像を提示するが、不当逮捕だという主張を変えなかった。

 そして、コークリに駐留する大使館の職員を逮捕するという暴挙に出た。

 これに対して、政府はすぐに報復措置を断交すると共に国交断絶を表明し、コークリ在住の国民を退避させた。

 具体的には国際取引による信用状発行の停止や、コークリへの輸出停止だ。

 

 これだけでコークリは音を上げた。

 すぐに大使館員を釈放し、報復措置の解除を申し入れてきたが、政府は耳を貸さなかった。

 輸出禁止について、半分程度解除したが、半導体製造に関する品だけは輸出制限を継続した。


 逮捕した漁船の船員については全員が投獄され裁判待ちの状態にある。

 さらに滞在者の永住権取り消しと厳しい処置が取られている。

 政府は本気で国交を断絶させるつもりのようだ。


 そして、コークリの主要輸出品目である半導体の製造ができなくなった事で、経済状態が一気に悪化してきたようだ。

 まあ、コークリに関しては良い印象はない。

 誘拐もされたし、なにより両親の仇なのだ。

 擁護する理由など1ミリもない。


 そんな中で、太西洋で白ゴジが出現した。

 サハラ砂漠の南に位置する西アフリカ共和国の沖合での目撃情報が届いたのだ。

 ただ、協力依頼がない限り、こちらから出動することはない。

 しかもアメリアにボイルの兄弟機があるので、大和よりも近いアメリアに討伐依頼が出されることも考えられる。


 指示がない以上、俺たちは通常のスケジュールで活動する。

 朝食を終えて近場で散歩をする。

 

「今日は北へ向かおうか。」

「北ってどっち?」

「スマホのマップがあるだろ。」

「うん。」

「その画面の上が北で、下が南になるんだ。」

「上が北で、下が南。うん覚えた。」

「じゃあ出かけようか。」

「ヨーゼフ、いくよ!」


「お兄ちゃん、海の中に何かいるって。」

「なにぃ!」


 俺はすぐにソナーを確認した。

 生物ではなさそうだ。

 俺はボイルを呼んで海中に潜っていった。

 ハイジもボイルに移ってもらっている。 


 ヨーゼフたちもあとをついてくる。

 正体は潜水艦だった。大和の船ではない。

 俺は潜水艦の正面に回り込み、無線および音声で浮上するよう呼びかけを指示した。


 だがこちらの呼びかけを無視して逃亡を図ってきた。

 潜水艦の速度は最高でも時速40km程度である。

 

「スクリューを2000度で過熱!」

「ロック、過熱開始!」


 推進力を奪われた潜水艦は浮上するしかない。

 国籍不明の潜水艦は沈黙している。

 

「浮上するよう呼びかけてくれ。」

「了解!」


 次の瞬間、潜水艦が爆発した。

 ボイルには影響ないがヨーゼフたちが心配だった。


「ハイジ、ヨーゼフたちは大丈夫か?」

「うん。離れていたから3匹とも大丈夫。」

 

 爆発といっても粉々になるわけではない。

 深度も100m程なので原型をとどめている。

 俺は残骸をレビテーションで浮上させ、基地まで曳航していった。


 隊員の制服や敷材・残っていた書類からコークリの船と断定された。

 そして驚いたことに、5名の生存者がいた。

 5人への尋問を行ったのち、外務局はコークリに領海侵犯と爆発の事実を告げ、捕虜5名を拘束していると通知した。

 当然だが世界へも内容を発信している。


 コークリは消息の分からなくなった潜水艦で、機器類の故障で流されたのだろうと表明し、遭難者と残骸の引き渡しを求めてきた。

 だが、捕虜の証言により作戦行動中であったことは分かっている。

 それを突きつけるとコークリは沈黙した。


 残骸には、システムエンジニアたちが情報の復元に取り組んでいる。

 メモリーが濡れていなければ、情報は残っているはずである。

 もし、濡れていたら換装させれば復活するはずだ。

 

「どうですか?」

「セキュリティーを解除できれば、データーは残っているみたいなんですが……。」


 何気なしに作業を見ていたのだが、なんだか眩暈がして立っていられなくなり、膝をついてしまった。


「どうしたんですか?」 「大丈夫ですか!」


 膝をついたときに、機材に触ってしまった。

 その瞬間、頭の中に記号や文字列が流れ込んできた。


「……なんだ、これ……」

『ご主人さま、気持ち悪いです……。』

「えっ?」

『ご主人さま、これ……プログラム言語……です。』

「言語?」

『解析には時間がかかりますけど、セキュリティーを解除してやればSEの人たちがやってくれそうですね。』

「解除できるのか?」

『この、初期設定のPersonal Identification Number(パーソナル・アイデンティフィケーション・ナンバー)とパスコードをどちらも1234に書き換えて……これでどうでしょう?』


「PINとパスコードを1234に変更しました。これを試してみてください。」

「えっ、変更したって……。」


 カタカタカタカタ


「と、通った。パスコードも……こっちも、いったいどうなって……。」

「なんか……、直接データの中に潜り込んだ感じで……。」

『これって、どういうことなんでしょう?』

「いきなり、頭の中にデータが入ってきた感じで、僕にもよく分からないんですけど……。」

『これって、C++ですから、落ち着いて見ればcinとかcoutとかのコマンドが見えますよね。データなので見づらいですけど、ちょっと見やすいように改行して表示しますね。』

「あっ、これならプログラムだって分かるね。」

『注釈をつけてみました。これでどうですか?』

「ああ、……そういう事なんだ。桜って全部の言語を理解できるの?」

『主要な言語だけですよ。』

「でも、何でいきなり?」

『さあ……。推測ですけど、ご主人さまのアビリティーではないでしょうか?』

「こんなアビリティーがあるものなの?」



【あとがき】

 覚醒?

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