第31話 気安く触らないでくださいな!そう言って彼女は男を投げ飛ばした

 空港には、数千人が集まっているようにみえた。

 ロビーで出迎えてくれたのは、アブラド第一王子だ。

 マスコミに対して、3人並んで記念撮影をする。


 通訳さんを介して聞いたところでは、防衛庁のアップした2本のライブ中継は中東でも大人気であり、俺たちはヒーローなのだという。

 王子に促されて民衆に向けて手を振る。


「ミス・サヤカもお願いします。」

「私はミスではありませんわ。」

「承知しております。ですが、ミセス・シンドウではありませんよね。」

「それはそうですけど……。」

「それに、サヤカの人気も凄いのですよ。」


 知っている……。

 白ゴジの討伐動画2億再生に対して、火口凍結は5億再生を超えている。

 まあ、残酷だという意見も一部であったから理解はしているのだが……。


 そして国王との昼食会になった。


 その前に、記念写真を撮ったのだが、ここでも真ん中はサヤカだった。

 おかしい……、主役は白ゴジを討伐しに来た俺ではないのか……。


「我が国の経典では、女性は男性より弱い存在であり、それを保護するために一夫多妻制を導入してきたのだが、そのために女性の存在自体を軽視する風土ができてしまったのだ。」

「一夫多妻の背景にそんな考えがあったのですね。」

「だが、その考え方も変化してきており、女性は決して守られるだけの存在ではないという認識が生まれつつあるのだ。私もその考えには賛成しておる。」

「それで、奥様方が同席されているんですね。」


 俺たちの周りには、9名のご婦人や5人の王女が同席している。

 一方で、王子は第一王子一人だけだった。


「そうした背景の中で、先日拝見したサヤカさんの動画には驚きましたの。キラウエア火山にいったこともありますが、あの熱量と迫力はパワーそのもの。」

「その火山を一瞬で鎮めて見せた実力に魅了されてしまいましたの。」

「サヤカ様こそ、私たちが描く理想のお姿といえますわ。」

「今回、サヤカ様がお越しになると聞き、父に無理をいってこの場を設けていただきましたの。」


 ここからは、女性たちだけで盛り上がっていった。

 そして、夕方にはテレビ出演だといって、王女たちに拘束されてしまった。

 その間、俺は魔法士のおっさんたちを指導していた。


 俺たちの動画再生数はますます開いていった。


 UARでもまったく同じ図式となった。

 UARは7つの国が集まった連合国家であり、当然だが7人の国王が存在する。

 そして、その会食会には7人の国王と、15才以上で未婚の王女たちが18人参加していた。

 グヘヘヘヘッ。

 未婚の王女となれば、当然目的は俺なわけで、ムフフな展開が……と、誰もが思っていましたよ。

 俺も、サヤカもね。


 ところが、またしても俺の相手は男の魔法士ばかりで、王女たちの目当てはサヤカでした。

 

「ジン君、何を拗ねているんですか?」

「す、拗ねてなんかない。」

「まさか、王女様たちとの展開を機体していたんですか?」

「そんなわけ、ないだろ。俺にはサヤカがいるんだから。」

「だったら、存分に愛してくださいね。」


 3回目までは記憶にあるが……。


 翌日、大和から緊急連絡が入った。


「ジン君、アメリアから緊急の応援要請があった。」

「どうしたんですか?」

「少なくともイージス艦3隻が沈没し、攻撃用ヘリも何機かやられている。」

「今の状況は?」

「LAのビーチに上陸しようとしたところを、ミサイルで集中攻撃して追い返したようだ。」

「まだ、船の人間がエサだということには気づいていないんですね。」

「ところが、引き返すところで、イージス艦から退避した救命艇と遭遇し、生存者全員が食われてしまった。」

「人間の味を覚えてしまったと……。」

「運悪く、その様子が民間の中継で放映されてしまったんだ。」

「向こうの魔法士はどうなんですか?」

「熱波……ブレスで大勢がやられてしまったようだ。」

「ヤツの満腹度合いは?」

「30人程だ。」

「明日には腹を空かせるレベルですね。」

「褒賞は1500万ドル。中東と同レベルだ。そっちの了解もとってある。」

「でも、どうやって行くんですか。ほとんど地球の反対側ですよ。」

「安心してくれ。UARからLAの直行便をおさえてある。」

「それで、終わったらまた戻ってくるんでしょ。勘弁してほしいんですけど……。」

「そんなことを言わないでくれ。アメリアは強力な同盟国だ。断れない立場だっていうのは君も分かるだろう。」

「勝手なことを言ってくれますけど、一歩間違えればヤツのエサになるんですよ。ピクニックじゃないんですから。」


 俺たち二人は、その日の昼出発の便に乗り込んだ。

 16時間のフライトだ。

 ちなみに、軍用機でこれだけの距離を飛べるものは少なく、すぐに手配できる機体はなかったようだ。


 LAに到着した俺たちは、用意されていたヘリに乗り込み沿海域戦闘艦というのに送られた。


「お待ちしていました。通訳のジミー折原です。」

「真藤です。状況は?」

「昨日姿を消してから変化はありません。」

「じゃあ、寝られる部屋をお願いします。二人とも時差ボケが厳しいものですから。」

「艦橋での仮眠でいいですよね。」

「いや、艦橋じゃ落ち着けないですし、彼女も着替えられないですよね。」

「ですが、24時間、艦橋で待機していただくよう指示されていますので。」

「だれから?」

「艦長です。」

「いいですか。俺たちは16時間かけて来てるんだ。しかも、魔法士にとってリラックスと集中できる環境は不可欠だって知らないんですか。」

「ですが……。」

「何をやっている。早く艦橋に連れて来いと艦長がお怒りだぞ。」

「ですが、この二人が休養できる部屋を用意しろと。」

「そんなもん無視に決まってんだろ。ほら艦橋へ連れて行くぞ。」


「折原さん。俺たち会話はできないけど、翻訳機があるので言っていることは分かるんですよ。」

「えっ!」

「この国が俺たちをどう扱おうとしているのか分かりました。悪いけど、サウリに戻りますから、そこのタコにもそう伝えてください。サヤカ、疲れているところ悪いけど、フライトで飛んでいこう。」

「こんな海の真ん中から、どうやって帰るっていうんですか?冗談いわないでくださいよ。」

「俺たちは魔法で飛んでいけるんですよ。」

「まさか……。」

「何をグズグズしてんだよ。艦長にどやされるぞ!」

「この二人が、魔法で国へ帰ると……。」

「馬鹿を言ってんじゃねえよ。そんな魔法聞いたことねえだろ。」

「いや、二人とも動画では確かに飛んでいました。」


 タコはサヤカの手を引いて無理やり連れて行こうとする。

 俺が動くよりも早く、サヤカが行動を起こした。

 手をひねって男の手を払いのけ、襟首を掴んでフェイクを入れてから腰に乗せて、男を甲板に叩きつける。

 背負い投げだ。


「気安く触らないでくださいな。」


 多分英語だ。翻訳されて表示が出ているのだが、叩きつけられた男は意識を失っている。


「ジン君。勝手に帰っちゃうと怒られるから、艦長さんにお断りだけしていきましょう。」

「あ、ああ。」


 俺たちは折原氏に艦橋まで案内させた。

 

「遅いぞ、グズグズしてんじゃねえ。」

「ですが、この二人が、こちらの指示に従えないと。」

「なにぃ!」


 艦長と呼ばれた男の顔が真っ赤になった。

 まさか、血圧が高いのか?



【あとがき】

 実際にドバイ・LAの直行便があるんですね。驚きました。

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