第8話 新しいシステムだが、防衛庁で実用化されるのに3カ月はかからなかった
「3カ月以上凍結されたとして、国で採用された場合の報酬はどうなるんですか?」
「そこなんだよな、民間で億になるアイデアだとしても、国から出る褒賞は数百万だな。」
「それって、酷すぎないですか?」
「ただ、その3カ月の間に、防衛庁と魔法庁は対策を立てることができる。」
「対策ですか?」
「そう。このシステムが戦争や犯罪に使われた場合、どう対処するか。」
「でも、それは魔法シールドで防ぐだけですから、変化はないですよね。」
「確かに、防御方法としては正しい選択だな。我が国の魔法および物理シールドは、綿密な論理式と最大5重のシールドを重ねることで高い防御力を実現している。」
「あっ、発動速度が!」
「そう。今までは敵影を発見してから、魔法で攻撃を受けるまでに最短で30秒。大規模魔法でも90秒のタイムラグがあった。」
「それが、簡易魔法発動プロセスの影響でタイムラグゼロになってしまった。つまり、防御側も質より速度優先に変わらざるを得なくなった。これは、お前らが直面する課題でもある。」
「先生。でもオブロンは公開する前日に、防衛庁と魔法庁に情報を伝えたと聞いていますけど。」
「はあ。当事者がいると授業ってのはやりにくいもんだな。」
「えっ?」
「真藤が言った通り、情報は受け取ったのだが、検討すらされていなかった理論だけに、防衛庁と魔法庁は本気にしなかった。」
「「「えっ?」」」
「その情報は、部長クラスまで共有されたものの、誰一人として本気にしなかったんだ。そこからオブロンの公表まで……いや、大臣がその日の夕方になって問いただすまで、何も行動を起こさなかった。」
「それは、防衛庁と魔法庁の怠慢ですよね。」
「まあ、そういうな。俺だってお前らの受け入れ準備で、深夜まで知らなかったんだ。」
「じゃあ、僕のミスというのは結局何ですか?」
「今回、オブロンの収益は数十兆円に上るだろう。」
「まあ、そうでしょうね。」
「普通に考えれば、お前の取り分は数十億ってところだな。」
「オブロンの下地があってこその発想ですから、そんな大した事じゃないですよ。」
「まあ、それが13才の発想だな。そこでマネジメントのできる大人がついていれば……。」
「いやいや、国の防衛って話から、一気に落としましたね。」
お金の話は、半分冗談だったようだが、対策という面では冗談ですまない。
犯罪者に対抗するにはどうしたら良いのだろうか。
魔力量に余裕があれば、俺のように常時シールドを展開しておけばいいだろう。
だが、ナビを所持していない一般人の方が圧倒的に多い。
その夜、桜と相談してみた。
昼間は、極力話しかけないように指示してある。
『そうですね。魔石を使ったシールドの魔道具を持っていればいいんじゃないでしょうか。』
「それだと、結構高額になるよね。」
『必要だと思うのなら買えばいいと思うんですが、違いますか?』
「理屈はそうなんだけどね。経済的にそんなものを買えない家庭もあるだろうし、何かうまい方法はないかな……。」
まあ、俺程度が思いつくようなら、そもそも問題にすらなっていないだろうし、ゆっくり考えてみることにした。
簡易魔法発動システムの授業でもそうだったが、授業は実践的なものが多い。
例えばマルチタスクの授業があったりする。
支給されたナビも、3つのプロセスを並行処理できる。
これにより、魔法シールドと身体強化と攻撃魔法を同時に発動できたりする。
シールドや身体強化は常駐型魔法となるため、継続して動かしておく必要があり、停止する時には手動で解除する必要がある。
このような、魔法の実践型授業は、5人一組のチームになって、相互に情報交換しながら行うことが多い。
全部で10チームあるのだが、俺の入ったチームはEチームとなった。
俺以外のメンバーは、ゴリマッチョ茶髪・短髪の桜井宗一郎君と長髪・緑髪のモデルタイプ黄緑亮君、黒髪おかっぱ風のもやしメガネ一ノ瀬徹君と、小柄だが運動神経抜群でスポーツ刈りの坂本新之助君だ。
「ねえ、この魔法シールドと身体強化を発動しちゃうと、常駐しちゃうからあと一つしか発動できないよね。」
「当然ですね。まあ、3つ目以上必要なケースは少ないと思いますけどね。」
「でもさ一ノ瀬君、どうせなら物理シールドもつけたいよね。」
「そうすると、防御特化になるよね。」
「そこなんだけど、三つとも自分に対する魔法だから、座標指定は不要だよね。だったら一連の魔法式で三つとも発動できないかな?」
「あはは、やっぱりジン君は変わった発想をするよね。」
「それは流石に無理じゃね?」
桜が魔法式を表示してくれた。
「うん、大丈夫みたいだよ。魔法式はこうなるんだ。」
「えっ、本当にこれが成立するのかい?」
「実際に起動してあるからあとで検証してみようか。」
俺たちのチームを担当する真田副担任が教えてくれた。
「うん。魔法式での複数魔法発動は2年になってから教えるんだけど、ジン君の魔法式は正しく書けているよ。まあ、この授業はマルチタスクを覚えるのが目的だから、別々に起動してもらっているんだけどね。」
「真田先生、それならば……というか、常駐させないで、時間を指定して完結させることはできないですか。例えば120分継続させるとか。」
「えっ、そんなことは考えてもみなかったけど、……うーん魔法全集にもネットにもそういう情報はないね。」
その時、桜が”未検証”と注意書きして魔法式を表示してくれた。
「えっと、こんな感じの魔法式になると思うんですが……。」
俺の中では、既に起動している。
少なくとも、身体強化は働いているようだ。
「実行してみましたけど、身体強化は効いていますね。一ノ瀬君、ちょっとシッペしてみてよ。」
俺は一ノ瀬君に左腕を差し出した。
「こ、こうかな。」
ペシッ!
「うっ、痛っ!」
声をあげたのは一ノ瀬君の方だった。
「うん。僕のほうは痛くないよ。あとは魔法シールドの確認と、効果時間のチェックだね。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。御代先生に声を書けてくるから。」
結局、その日はこの魔法の検証になってしまった。
三つの魔法が効果を発していることを確認し、短時間に変更して効果時間も検証できた。
「それじゃあさ、魔法シールドと物理シールドを、第三者にかけたらどうなるかな?」
「なにっ!」
「ナビを持っていない人にかけて、離れたあとでも効果を維持できたら、例えば子供の登校や下校の時に保護できるんじゃないかな?」
「お前、そんなことができたら……。」
「個人が持たなくても使える魔道具なんて、それこそ世界初ですよ!」
真田先生が興奮気味に叫んだ。
結局、ナビを置いた真田先生に、俺が魔法をかけて有効性を確認できた。
「全員、今日のことは防衛庁に報告して判断待ちとする。外部への情報提供は一切禁止だ。万一漏洩した場合、法律違反となるから覚悟してくれ。」
「先生、この間聞いたみたいに3カ月ですか?」
実習室に笑いがおきた。
国民の安全にも直結する問題であったため、この件については2日で首相まで報告があがり、その翌日には防衛庁が特命案件として3社に製品化が指示された。
俺からの口利きで、オブロンも入っている。
まあ、AIである桜の提示した魔法式なので、これくらいの優遇は仕方ないと判断してくれたようだ。
1カ月後には製品化されたマギシールドシステムが、全国の学校と自治体に配備され運用が始まった。
【あとがき】
またやらかしてしまいました。ジン&桜コンビはどうなっていくのか……。桜はヒロインなのか?
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