第2話 監視衛星を追尾するドラゴン

 皮肉なことに、戦争により効果的に人を殺傷するのはという研究が活発になり、ヨーロッパで範囲魔法という概念が生まれた。

 魔法による発火というのは、単に空気を振動させて加熱しているに過ぎず、仮にこの加熱した空気を敵にぶつけたところで、盾や鎧で簡単に弾かれてしまう。

 

 このため、敵のいるエリア全体を加熱するという考え方に変わってきた。

 今でいうエリア魔法だ。

 この範囲を正確に表現するため、地面(シード)から垂直に伸びるS軸と地面と平行に伸びるY軸が考えられ、3軸が交差するポイントをターゲットポイント(TP)と呼んだ。

 ターゲットポイントを中心として、Y軸上に円状展開した範囲をターゲットサークル(TC)、もしくはターゲットエリア(TE)という。

 

 どんどん複雑化してくる魔法式を素早く表現するため、優れた魔法士には補助役がどうこうするようになった。

 この補助役はマギ・ナビゲータと呼ばれ、今でも補助演算装置はナビと呼ばれている。



「博士は、ナビ開発に進むんだろ?」

「試験に受かれば、だけどね。」

「大丈夫だって。学科で全校2位なんだからさ。それに、プログラミングとオリジナルの魔道具開発じゃ1番なんだし、もっと自信を持って大丈夫だって!」

「でも、毎回赤坂さんには叶わないし……。」

「大丈夫だって。リンは魔法理論や演算基礎には強いけど、魔道具開発には弱いんだ。まあ、教えてもらったことは理解できるけど、独自性がないんだな。」


「誰がオリジナリティーに欠けているのかしら?」

「わっ、出た!」

「あなたね、全校美少女ランキング8位の私をお化け呼ばわりするつもり?」

「うーん、微妙な順位だな。それに、自分で美少女とかいうの、恥ずかしくね?」

「くっ、だって、8位なんて順位じゃ誰も”美少女”枠として認めてくれないんだから……。」

「うんうん、泣くな。その気持ちは俺にもわかる。」

「泣いてないわよ!それに、ジンだってイケメンランキングの9位って私より下じゃない。」

「別に、そんなもん気にしてねえし、そもそも全校ランキングボードなんか見たこともねえよ。」

「くっ……。」


 こいつは赤坂 凛(アカサカ リン)。同級生であり、幼馴染でもある。

 3才の頃からプロレスで戦ってきたライバルなのだ。

 まあ、入学してからはやっていないが……。

 リンの容姿は優れていると思う。燃えるようなショートの赤髪は少しくせっ毛で、同色の赤い瞳もエキゾチックだ。

 

 この学校の標準ウェアは、黒のボディースーツタイプで、魔力の流れを邪魔しない赤い線が幾何学模様のように入っている。

 その上に前ボタンのベストを着るのだが、ベストは入学年度よって色が変わっており、俺たちの年代はダークオレンジに黒のチェックという微妙なカラーリングだった。


 女子についてはパレオの着用も認められており、色・長さは自由なので多くの女子生徒がファッションを楽しんでいるのだが、リンが着ているところは見たことがない。

 美少女ランキング8位というのは、そこが影響しているのかもしれない。

 まあ、そんなランキング上がらなくていい。こいつは俺のライバルなのだから……。


「それより、磯貝君、今週の課題終わった?」

「魔道具のやつ?」

「そう、それ!衛星軌道上で加速するドラゴンを、迎撃しろってやつなんだけど、魔法式は完成したのに、しっくり来なくて気持ち悪いんだよね。」

「あれは、TPをどこにするかで結果が変わるんだよ。」

「えっ、まさか……、そうか、そういうことだったんだ。アリガト、今度奢るからね。」


 リンはそういうと走って去った。

 

「課題にそんなのあったか?」

「ジンはまだ、監視衛星を衛星軌道にあげてないんじゃないのか?」

「うっ、監視衛星の通信プロトコルを解析中だ……。」

「じゃあ、当分先だよ。卒業までには……無理じゃね?」


 磯貝 博士(イソガイ ヒロシ)。

 入学してからのつきあいだが、頭がいいこともあって、みんなハカセと呼んでいる。

 メガネの小柄で、ペット的な可愛さがあり、意外と女子に人気なのだ。

 地頭の良さに加えて、応用力の高さがあり、既に二つの魔道具を実用化させている。

 出身は8年前に併合された土佐連合で、親元から離れ学生寮に入っている。


 ちなみに俺は、小さいころに両親を亡くしており、父親の親友であったリンの家で育てられた。

 学校への入学をきっかけに、俺も学生寮に入ったのだが、リンは未だに家へ帰ってこいという。

 だが、俺は早く独立したいのだ。

 早く一人前の魔法士になって……。


 魔法学校の中等部に進学できるのは、全体の50%程だという。

 中等部で専門化されたコースに進み、5年間学んだあとで高等部に進学できるのは更に半分となる。

 つまり、初等部の25%なのだ。

 高等部を卒業した者は能力に応じて専門機関へ就職する。

 ハカセが狙っているのは、魔法局の魔道具開発部署だ。

 初等部入学時点で、ここまで明確な将来像を持っているのはハカセだけだった。

 俺を除いて……。



 10月の第2週は、総合実習と銘打った。

 自分で設定したMPUを装着して、3人一組でダンジョンに挑戦するというもので、攻略を目指すのではなく、MPUの動作確認や操作訓練が主体だった。

 MPUは、普段授業でも使っている貸与品の、第二記憶域を使う。

 万一の場合は、第一記憶域で待機している非常退避システムにより保護・避難できるようになっている。

 これは、毎年行われているイベントであり、学校側も参加者もそこまでの緊張感はなく、油断していたともいえる。


 俺は、ハカセとリンでパーティーを組み、MPUの設定内容をチェックしてもらいながら申請書の提出を行った。


「磯貝と赤坂は完璧だな。真藤は80点だな。まあ、合格だ。」

「じゃあ、明日出かけます。」

「気をつけてな。」


 初級ダンジョンのタマ風穴はシブヤから電車で30分の距離にある。


「ダンジョンなんて初めてよ。」

「いや、みんな初めてだろ。」

「僕は、親に連れられて、入り口をくぐったことはあったね。親がゴブリンを倒すのを見てただけだけどね。」

「ナイフなんて、実戦で使うのは初めてだから緊張するな。」

「僕には、ジンがスライムにナイフを突き立てて、ボロボロになった未来が見えるけどね。」

「待てよ。模擬戦では二人とも俺に勝てなかっただろ。」

「模擬戦では、身体強化使ってないしね。」


 三人とも緊張感はなかった。

 学校のシミュレータで、Fクラスの魔物との対戦は何度も経験しているし、俺はCクラス、二人はDクラスの魔物とも戦闘訓練を積んでいる。

 今回のダンジョンでは、Fクラスの魔物主体で、せいぜいEクラスどまり。

 最強でもコボルトを想定しておけば大丈夫だといわれてきた。


 コボルトはゴブリンより一回り大きい亜人間タイプの魔物で、ゴブリンと同じくこん棒などの武器を使ってくる。

 木のヤリを使ったという情報もあったので、一応警戒しておきたい。

 シミュレータの情報では、体内で発火させれば簡単に倒せるとされているが、基本的な作戦としては、ハカセが身体強化を俺にかけて、俺が盾で防御している間にリンが火魔法を発動することになっている。

 

 だが、実戦では何が起きるか分からない。

 俺もナイフで応戦できる準備は整えておくのだ。


 そして俺たちは、ダンジョンのあるニコタマ駅に到着した。



【あとがき】

 タイトルは課題のプログラムでした

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