残嘘
青蛇でれら
第1話
ツナ缶を手に取る。
仕事帰りのスーパーはそこそこ混んでいる。
自宅まで20分ほど近く歩く。バスだと5分。
レジを済ませバス停に向かうが、エコバッグから立ち込める腐敗臭に足がすくむ……
季節は7月。
歩いて帰ることにした典子。
おでこに汗が滲む。ビニール袋を持つ手も汗で湿っている。
やっとマンションが見えてきた。
マンションを囲むようにイヌホオズキが生えている。
さりげなく咲く小さな白い花に 、市子は心がほぐれ、小さく笑う。
8階の部屋に着いて、ほっと荷物を下ろす。
⌜今日も一日頑張りました…⌟
とりあえずエコバッグごと冷蔵庫に入れる。
同時に冷凍庫からラップに包まれたお米を出し、電子レンジで温める。
買ってきたツナ缶を開けマヨネーズをたっぷりかける。
幼い頃からツナ缶でお米を食べるのが好きだった。
寂しいと思った事は無い。
両親は私の為に、一生懸命働いてくれていたのだから。
温まったお米を100円ショップで買ったお茶碗に移し、ツナ缶をおかずに、胃に流し込むように食べた。
一息ついたら冷蔵庫に向かった。
エコバッグを取り出した。
「臭い……」
中身を取り出す。
会社の休憩時間に、近くのデパ地下で買った惣菜とフルーツ。
中古で買ったお洒落なお皿に、それらを盛り付ける。
テーブルはイタリア製だ。
昔お世話になった先輩が結婚し、引っ越す時に譲り受けたテーブルだ。
「今日の私のディナー」
ほうれん草のキッシュ、牡蠣のグラタン、レバーパテ、ローストビーフ、パルミジャーノレッジャーノ、コンテ、シャインマスカット、イチジクのタルト。
市子は映る写真を必死に撮る。
SNSにあげるためだ。
「あー嘘って楽しい……」
「嘘は誰も傷つけない……」
「何より嘘は私に優しい……」
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