夏ト田舎ハ斯ク在ル可シ

舟渡あさひ

プロローグ

 僕の夏は麦茶だった。


 ただ冷えた麦茶ばかりを胃に注いで無為な日々を浪費するだけの夏だった。そこに、怪談が向こうから来た。


 いや、怪談が来た、というのは間違いであろう。確かに彼らは怪異であった。人の理から外れた尋常ならざる何かたちであった。


 ただ、奴らとの日々は、怪談と呼ぶにはあまりにも間抜けで緊張感に欠けるものであった。あれを怪談などと呼ぶのは、本物の怪談に失礼というものだ。


 だが、それでいいと思っている。きっと、それでよかった。そうであったからこそ、僕は思い出すのだ。


 夏という言葉を聞く度に。青く茂る山を見上げる度に。足を冷たい水にさらす度に。花札に興じる度に。祭り囃子に心を踊らせる度に。


 無性に麦茶が飲みたくて堪らなくなるのだ。

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