ダンプフヌーデル

ゆめいろ

結花とティラミス

 (どうしたらいいんだろ……。)

私は夜に染まっていく町を見ながら、大好きな友達、優海のことを考えていた。明るくて優しい優海のことが大好きだった。

 優海とは、びっくりするくらい共通点があった。たくさんいろいろな話をした。妹への不満、好きな映画の話、クラブの話。他の人にはできないことも話していた。言葉にできない何かが合っていたんだと思う。

 私達は五人グループでいたけど、二人は特に仲が良くて。そんな感じだったから、私は優海が元気なさそうにして見えると悲しかった。いつもみたいに笑っていてほしかった。

 だから、相手の気持ちを考えずに何度も

「どうした? 大丈夫?」

と聞いてしまった」。

 何が原因かは相手のことだから分からないけど、次第に別のグループと優海はいる時間が増えた。それに五人グループの中でペアが二つに分かれ、どうしたらいいのか迷っているうちに私は一人になった。そうなるにつれ、優海は戻ってきたから気まずくて、会話が弾まないことも多かった。私が話しかけに行こうとすると、どっか別の場所に行ってしまって、勘違いかもしれないけど辛かった。クラブの後、帰り道が一緒の子と三人で帰っているときも、私がいるときだけ黙っているらしくて、その子とは普通に話しているということを聞いたときも辛かった。

 なんだか今日はすぐに帰りたくない気分。

 私はほんとは駄目だけど、少しだけ寄り道をして帰ることにした。行く当てもなくとぼとぼ歩く。足を前に出す度に、足にずしんずしんとおもりが増える感覚がする。ああ、辛いな……。

 ふと、俯いていた顔を上げると可愛らしいお店の目の前にいた。看板には「ダンプフヌーデル」と書いてある。

 「ダンプフヌーデル?」

 気が付いたら、お店の中に入っていた。

 店内はアンティークで揃えられていて、テディベアに目を奪われた。

「可愛い!」

そう、私はテディベアが大好き。つぶらな瞳、今にも笑い出しそうな口、ふわふわの体。きっと、心を込めて作られたに違いない。

「いらっしゃいませ」

 声のした方を見ると、なんとテディベアがシャツにベスト、チェックのズボンをおしゃれに着こなしている。それにテディベアが話した! 可愛い! 可愛い物を見ると、少しだけ元気が出てきた。

「あの、ここは?」

疑問はたくさんあるが言葉にできたのは一つだけだった。

「『ダンプフヌーデル』というカフェをしているんです。くつろぎの時間を象徴する存在なのです。素敵でしょう。私はハリボー。お席に案内しますね」

 確かに、ここに来てから少しずつ気持ちが落ち着いたことに気が付いた。

 ソファもふかふかだし、何よりハリボーさんが優しくて優しくてとっても居心地が良い。

 メニューを見るとマドレーヌ、フィナンシェ、ショートケーキなど、どれも美味しそうで迷ってしまう。迷っているとハリボーさんが来て紅茶を出してくれた。

「ちなみに本日のケーキはティラミスです。私を上に持ち上げて、私を元気にしてという意味もあるんですよ」

私はそれを聞いた瞬間、涙が零れ落ちた。泣き止むまでの間は長かったようにも短かったようにも感じる。ただ、優しくハリボーさんが背中をさすってくれたことは覚えている。

 泣き止むと

「ティラミスください」

と伝え、勇気を出して辛かった出来事を話した。辿々しい説明にもきちんと向き合って聞いてくれて、すごく心強かった。話し終える頃を見計らって、テディベアの店員さんがティラミスを出してくれた。ハリボーさんとは違い、シャツにリボンをつけて、ベスト、ズボンを可愛く着飾っていている。

 ティラミスの盛り付けがセンス良くて、つい

「いただきます。でも、食べるのもったいないな」

と口に出した。

 するとハリボーさんが

「妻のティラミスが作ったティラミスですから、出来立てを召し上がれ」

と声をかけてくれた。そんな小さな気遣いが嬉しくて、食べ終える頃には心が軽くなっていた。

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