第13話 誕生日パーティとドレスとワイン

 レベッカの、というかわたしの誕生日の五日前。

 ベルナールお兄様とお父様が、領地から王都のタウンハウスへと戻ってきた。

「おかえりなさいませ、お父様、お兄様っ!」

「ただいま、レベッカ」

 とりあえず、と言ったらお父様には失礼なんだけど、お父様からプレゼントしてもらったホワイトゴスロリ衣装を着て、髪には赤い色のヘッドドレスをつけて、久しぶりに髪の毛も悪役令嬢的なドリル巻き! 西洋アンティーク人形的なレベッカの姿でお出迎えをした。

「おお、似合うじゃないか、レベッカ!」

「ありがとうございます、お父様。ですが……」

「ん? なんだ?」

「……ベルナールお兄様にいただいたドレスのほうも着てまいりますので、お父様にも見ていただけますか?」

「ああ……。だが、あれはレベッカには、まだ早いのではないか? 随分と大人びたドレスだと思うのだが」

 ふふふ、お父様。娘はいつまで経っても小さくてかわいいと思っているのかしら?

 だけど、試着をしたときに、我がモンクティエ侯爵家の侍女たちだけではなく、お母様からも「似合う」とお墨付きをいただきましたからねっ!

「着替えに時間がかかりますので、お父様もベルナールお兄様も、お母様と一緒にティーサロンでお待ちくださいね」

 にっこり笑って、わたしは淑女の礼を取った。

 そのまま部屋に戻り、着替えをする。

 ドリル巻きをしていた髪はほどいて、軽くウエーブを残したまま、ゆるく後ろへ流す。

 ベッドドレスとか、ペンダントとか、装飾品もいらない。

 ただ、このドレスを着たわたしを見てほしい。

 あ、靴はドレスに合わせてキラッキラな、ダイアモンドとかが靴の足の甲部分に散りばめられているヒールです。ドレスと一緒に届けられていたのです。さすがベルナールお兄様! 気遣いができる男っ!

 ドレスと靴の相乗効果で、大人の淑女度、更にアップです。

 お化粧も、薄くだけ、してもらった。

 鏡に映る自分の姿は、大人の淑女……に見えるけど。

 ベルナールお兄様は、なんて言ってくださるかしら……。

 期待と不安でドキドキしながら、わたしはティーサロンに向かった。

「お待たせしました、お父様、そして、ベルナールお兄様」

 三人の前に立ち、わたしはスカートを広げるようにして、淑女の礼を取った。

 お母様はにこにこと、満足そうに微笑んでくださっている。

「きれいよレベッカ」

「ありがとうございます、お母様」

「……驚いた。いつの間に、我が家のかわいい天使が、女神に成長したのかい?」

 お父様が感嘆のため息を吐かれた。

 ああ、ナイスミドルのダンディなため息、ゴチですっ!

「ありがとうございます、お父様。お父様が贈ってくださったドレスも素敵ですが……」

「いやいや、ベルナールの慧眼には負けたよ。男親にとっては娘はいつまでも小さくてかわいらしい天使なのだが……。もう、このようなドレスが似合う淑女になっていたとは……。誕生日パーティのドレスはこれで決まりだな」

「白いドレスのほうは、レベッカとオリヴィエが二人で出かけるときにでも着るといいわ。大人の女に成長したと言っても、まだまだレベッカだって、父親に甘えたい時もあるのですからね」

「はい、お母様」

 返事をしてから、わたしはベルナールお兄様に向きなおる。

 胸のどきどきが、体から飛び出て、お兄様に聞こえてしまわないかしら……と思いつつ。

「どう……でしょう、ベルナールお兄様。えっと、あの……似合い、ます、か……?」

 上目遣いにベルナールお兄様を見る。

 すると、ベルナールお兄様は口元を、右手で抑えていた。

 えっと? あの……?

「に、似合わない……ですか?」

 お兄様の予想と違ったとか?

 ちょっと期待外れだったとか?

 不安がせり出してきそうになった時、お兄様は、抑えていた右手をすっと胸に当てなおして、そして、わたしに向かって軽く会釈をしてきた。

「え……っと?」

「……一曲、お相手していただけますか、マイレイディ」

 差し出されたベルナールお兄様の手。

「べ、ベルナールお兄様……?」

「ここが、夜会の会場などであったら、私はそうやって、レベッカにダンスを申し込みたいと思う。それほどまでに……きれいだよ、レベッカ」

「お兄様……っ!」

 嬉しい。

 世界が光り輝いて見える。

 わたしは「喜んで」と言って、お兄様のその手に、わたしの手を重ねたのだ。

 お父様もお母様もそんなわたしたちをにこにことほほ笑んでみてくださっていた。

 壁際に控えていた侍女の一人が、すっと前に出た。

「差し出がましい口出しをお許しください。モンクティエ侯爵家のお抱えの楽士たちを、既にダンスホールのほうに控えさせております。よろしければ皆様でご移動願えますか?」

 ふ、ふおおおおおおっ! いつの間にっ! さすが侯爵家の侍女っ! 準備に抜かりがないわっ!

「行こう、レベッカ」

「はい、ベルナールお兄様っ!」

 お父様もお母様も一緒にダンスホールに向かって、そして、そこで四人みんなでダンスを踊ったの。

 とても素敵で、幸せな時間だった。

 一生の思い出よ……。



   ☆★☆



 幸せにふわふわしているうちに、わたしの誕生日当日になりました。

 お誕生日おめでとうございますありがとう嬉しいわ的な会話を……、あと何十回繰り返せばいいのかしら……?

 気が遠くなるわ……。

 淑女の笑顔も引きつりそうよ……。

 パーティは盛大です。

 招待客もめっちゃ多いです。

 故に挨拶大会です。

 死にそう……。

 モンクティエ侯爵家と長くお付き合いのある親しい人ばかりのアットホームな誕生パーティならよかったんだけど。

 わたし、というか、レベッカは、侯爵家の御令嬢。しかも王太子殿下の婚約者。

 誕生日パーティには国王陛下と王妃様と王太子殿下もやってくる。

 ……となればですね、国内のほとんどの貴族から、誕生日パーティに参加させてくれって、申し出られるのよ……。

 さすがに、付き合のないお家はお断りした。

 それなりに付き合いがあり、断れない相手のみを厳選して招待した……はずだった。

 だけど、多い。

 めっちゃ多い……。

 もう、出迎えの挨拶だけで疲れマックスになりそうだった。

 そんなところにやってきた、王太子殿下。

 婚約者の誕生日にドレスも贈ってこない王太子殿下。……贈ってもらっても着ないけどね。だから、別に王太子殿下からの贈り物なんて要らないんだけど。

 でも、この貴族社会。王太子の地位にある者が、婚約者が誕生日パーティに着るドレスを事前に贈ってこないなんて、普通はあり得ないんだよね。自分の髪の色とか瞳の色が入ったドレスを贈るのが一般的。阿呆の王太子殿下はいいとして、そのことに疑問を持たないお父様やお母様たちは……、やっぱり、物語の強制力っていうやつが働いているのだろうか?

 んー、元々の乙女ゲームを知らないから、何とも言えないんだけど。

 ま、とにかく、来た者はお出迎えせねばならない。

「まあ、ローラン・デル・ラモルリエール王太子殿下。わざわざ、わたくしごときの誕生パーティにお越しくださるとは……、光栄の極みですわ」

 ほほほほほーと、厭味ったらしく言ってやった。

 ちなみにヒロイン・エーヴ嬢には、当然だけど、招待状なんて出していない。

 さあ、この状態でエーヴ嬢を連れてこられるというのなら、連れてきてみやがれ。招待してない令嬢を連れてきたら、非常識殿下と呼んでやる。

 そういうつもりだったんだけど。

 阿呆王子でも、さすがに婚約者の誕生パーティに、しかも陛下と王妃様もご一緒しているのに、そこにヒロインを連れてはこられないか。

 肩透かしね。

 なんて、甘いことを考えていたわたしは馬鹿だった。

 油断していた。

 いいや、違う。

 所詮、王太子殿下なんて、阿呆なのよって、小者扱いっていうか、下っ端戦闘員扱いで、たいしたことないヤツって、見くびっていた。

 それが……わたしのミス、だった。

「レベッカ、貴様に誕生日のプレゼントをくれてやる。喜ぶがいい。年代物だ」

 そう言って、王太子殿下が取り出したのは、赤ワイン。

 それを、王太子殿下はわたしのドレスにドボドボと、降りかけたのだ。






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 お読みくださった皆様、コメント、♡・☆などなど、感謝です。

 ランキングもちょこっと上昇(*´▽`*)でっす。嬉しい。



 さて、このお話。

 想定では全15話でまとまるはずでした。

 ……ちょこっと伸びます。

 20話はいかないかと思うのですが……。

 もう少々お付き合いくださいませ。

 そして、完結まで、パソコンが壊れませんように……と、願う日々。

 今日も我がパソコンは、うなりを雄たけびを上げています……ああああああ。










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