mistletoe
Fuu
mistletoe
ふたりのつないだ手が、大勢の身体が、溶けてゆく
やがてそれは水となり海となり…星となって
そして溶かし切れないものは棘の形をした泡となって消えますようにという、祈り
何処へも行かない
何者にもなれる 何者にもなれない せめて星になりたい
宿木があなたの背に根を付ける
上空、金色の淡い鱗光を空に落とす
たくさんの人が、地へ向けて墜落していく
悪い人はもう居ない 祈りによって消えた
いつか、あなたの宿木は夕立を授かった
陽を一心に背負った輝く橙色から暗い紫色へ
いつか、あなたの宿木は天気雨を授かった
静寂の石を濡らし 焼き付いた陽光に一片の悲しみを浸し
宿木は目を伏せ、声を立てずに小さな涙を流した
あなたはひとり? ……
果たして、もう一人の宿木が生えた
そのあやかなる天空にて鳥はいと高きを舞いますように
そして魚は私達の墜落した大地いと深きを彷徨いますように
そしてつないだ羽と鱗を婚姻の証として
鳥と魚は結婚する
刃のような風が宙を八つ裂きにしながら埋め尽くす 灰色の雲を引きずり回す 大地はすべて血のような雨に殴りつけられる
空も大地もただ落ちてしまった
凪の鏡面になりたい
大嵐の中 袋から鳥と魚を交互に出す街中の人
血のような雨 鳥が地面に投げつけられる
血のような雨 魚が地面に投げつけられる 泥跳ねるぬかるみの中で鳥と魚はじたばた藻搔いている こびりつく泥に染まり切る
するとただただ向こうの木陰で、ただただ笑っている
こちらでは大勢が祈り続けている
なんて温かな笑顔なのだろう 人々は手を伸ばし絶叫する
宿木は枝を伸ばしてゆく 真白き光差す雲の切れ間へ…
……
天使は囁く 赦すために忘れておしまい 時は常に動き あなたの幸せのために こうして式は終わる
善性となってあなたは常世を守護する
ただただ雨の届かない木陰で、ただただ笑っている
ただただ笑っている
その外では大勢が泣いている
なんて温かな笑顔なのだろう
ふたつの宿木は睦み合い、
遥か天空で小さな風に枝葉を揺らしている
揺れる葉をさらさらとかすれさせながら
たくさんの人が墜落していく (明け方のずっと前)
鳥と魚は結婚する (今晩密やかに)
ふたりのつないだ手は溶けて星になり (わたしは消える…)
宿木は神様になった (これでいい)
mistletoe Fuu @violet_apple_machine
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます