青春時代編①
高校一年の春。同じ中学出身の連中はそれで固まり、同校の者が居ない者は集うべき集団を探している時期だ。余は集うべき先など探す必要がなく、堂々と教室で一人弁当を広げていた。
「お弁当余ってる?」
黒髪を長く伸ばした美少女が余に話しかけてきた。日本人としてはやや色の薄い肌色は人形じみている。身長もその辺の男子どもより高く見受けられる。恐らく昼飯を忘れたのだろう。
「図々しいな……構わんが……」
自分の弁当の下段を分けた。白米しか入っていない方だ。仕方がない。余は弁当のおかずのみを食べよう。唐揚げは渡したくない。白米は良しとする。
「ありがと。私、
まるでこうなることを予測していたように持っていた割り箸をナクアに渡す。
「なんだ?名前を名乗ったからお友達とでも言いたいのか?」
「そうよ。白米半分返すから唐揚げも頂戴」
ナクアは図々しい女だった。唐揚げも頂戴ではないだろうが。
「
余も渋々唐揚げを渡しながら自分の名前を名乗った。いや違うかこれは余が余に付けた仮名だ。
「何が?唐揚げの名前?」
「余の名前」
こうして余と
余はナクアのことを理解するためにこの高校に入学した。いずれ斬るために。父上に言われては仕方がない。
それから一年ほどして余は高校二年生になっていた。立場は人間をその形にするようで余も女子高生らしくなってきたような気がする。
高校の屋上で父上に中間報告をする。父上は新入生として入ってきた。
屋上は施錠されているのだが、鍵を堂々と借りた。脅しや賄賂で転ぶ教員が居て良かった。
屋上には既に父上が居た。恐らく校舎裏から地道に登ってきたのだろう。
父上の今の器は天然パーマの眼鏡男性で、胡散臭い雰囲気があった。今は器の名前である土御門キョージという名を名乗っているらしい。
父上は余の気配に気づきながらも、屋上の柵にもたれかかりグラウンドを眺めている。
「どうだ?」
父上は余に背を向けたまま話を切り出した。これまでの働きに労いの言葉も、アイスブレイクもなくいきなり本題に入る。まあ長々と話し込んで噂されても恥ずかしいからな。
「理解してきた。アレが蜘蛛の大神として顕現しても斬れるだろうよ」
その愚かな人間は破滅して何の影響力も残っていない。だが、人間の営みになど関心を持たないはずのアトラク=ナクアはよりによって、人間の営みに関心を持った。 目に付く悪人を掃除するようになった。
ナクアの存在は短期的には父上の利益になるが、長期的には邪魔と判断されている。よって余は彼女を切らなければならない。
「了解した。観察を続けろ」
そう言うと父上は何の関心も無くなったかのように屋上から飛び降りていった。
一度も振り向かなかったな。余はどうやら目で見る価値もないらしい。いやこの余という自我自体に価値を認めていないのか。
一般論として父というものは子に対して家族愛というものを持つらしいのだが、父上にはない。愛の不在については確信がある。
父上が余の自我とこの身体を創造したのはウマイヤ朝が存在した時期のルブアルハリ砂漠だった。
無限に等しい時間と時空の漂流の果てにとある詩人を器とした父上が、ヨグ=ソトースを切り裂き、加工し余を創造した。ヨグ=ソトースはこの世界の存在全てと同一でも同時にある。時間と空間の神だ。
その外側に真なる神が存在する。父上はこの世界の外にあり、この世界を夢として観測する真なる神に近しい
父上はいと高き視座にあり、出来上がったばかりの余を見てこう言った。
「違う」
無限を分割して創造された余は父上の目的とされるものではなかった。
それ故に余は手段として父上に運用される。自我を持つ凶器としてな。
「全て……全てを素材として創造しなければ足りないのか?」
父上はそう言って器の耐久限界でこの世界から退去した。余の次の被造物はヨグ=ソトースの全て、つまりはこの世界の全てを素材として創造されるようだった。
父上は何度もこの世界に顕現し、己の目的のために活動を続けている。
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