青春時代編②

「放課後暇?私と映画行かない?」


 いつものように教室でナクアと机を合わせて昼飯をしていると、そんなことを言われた。

 我々の昼飯はナクアが作ってきたハムサンドイッチ重箱である。ハムとパンだけが重箱にうんざりするほど詰められている。次回はチーズとか野菜とか違う具も入れて欲しい。ナクアは味覚が鈍感ではないのだが、美味しいと不味い以外の感覚がほとんどない。何を食べても美味しいと言う馬鹿舌だ。


「男と行かないのか?」


 ナクアには現在の肉体年齢的に年上の彼氏が居る(ナクアの本体は惑星の年齢と同じくらいだろうが)。ノロケを聞かされることも多い故に余は彼氏の存在を知っていた。表向きは。実際はもっと前から観察していた。


開左カイザは忙しいからしばらく帰ってこないし、じゃあイヌイでいいかなって」


 じゃあ扱いで余と映画見に行くのか?構わないが……

 ちなみにナクアの彼氏である斬島開左キリシマ・カイザは薄汚い人斬り一族の最高傑作だ。奴は一つの答えを出して、一族をほぼ皆殺しにした。

 現在開左カイザは悪の人斬り一族として得た人脈やノウハウを活用して、国と取引し公安に就職した。忙しいときは半年くらい行方不明になる。余や父上はそれなりに闇の情報網があるのだが行方不明になると全く足取りが掴めない。

 開左カイザも父上にとっては邪魔なのでいずれ斬る。あの程度の人間ならば絶対に勝てる故、観察する必要はない。あの程度で完成形と評される一族は最初から問題の立て方が間違っているだろう。


「ちなみにタイトルはなんだ?」

「『ガメラ2 レギオン襲来』」


 怪獣特撮映画を女子高生二人で見るのか?




 『ガメラ2 レギオン襲来』は面白い映画だった。札幌近郊に宇宙から怪獣が落ちてきて、自衛隊やガメラ(空飛ぶ巨大な亀)が地宇宙怪獣と戦う映画だった。

 人類とガメラは友好関係であって欲しいものだ。妙に教養のある自衛官の台詞やガメラがレギオン(小さい方)に覆われるシーンは官能的だった。

 余は特撮に詳しくないのだが、人類に友好的な怪獣と心が通じ合う人間は何だ?


「人類に友好的な怪獣―モスラとか味方のときのゴジラとか―と超能力で交信ができる登場人物は怪獣映画にけっこう居たりするのよ」


 ナクアは意外と怪獣映画に詳しかった。


「作劇的都合でそのような設定がありがちということか?」

「これは私の解釈の話になるんだけど、誰か一人くらい怪獣の側に寄り添って欲しいじゃない?人類の側に怪獣が寄り添っているんだから」


 ナクアの怪獣映画の超能力者テレパシスト評は中身が旧支配者らしい視点だ。


「しかし貴様は怪獣に寄り添い過ぎだ」

「そう?怪獣映画の怪獣はキャラクターであって共感を寄せる先でもあるはずよ」

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