小瓶の中を覗くなら

出雲 水雲

猫のお名前

カランコロンと優しい音が響く。

わたし以外だれもいないから静かなお店。

さっきのベルの音も、来訪を知らせた訳じゃないの。

どこかさびしくなって、わたしがカランコロンと鳴らしてしまったの。


小さくうなって、猫が足元にすりよってくる。

名前はまだにゃい、だなんて独り言を呟いた猫は綺麗な水色の毛をしているのよ。

名前はつけない主義なの、だってわたしも勝手に大切なものをきめられたくないもの。


ステンドグラスに陽が吸い込まれて、お部屋は明るい。

小瓶たちもレースのリボンを煌めかせているの。

すてきなお客様をまって、拾っていかれるのをまって。


カランコロン、今度はわたし以外の誰かがベルを鳴らしたのね。

お客様は可愛らしい女の子で、おびえたようすでドアをくぐる。


「失礼だけれど、ここはなんのお店なの?」


女の子に淡いお下げがとても似合っていて、わたしはすこし見とれていた。


「いらっしゃいませ、ここはね…

世界の小瓶を売ってるの」


不思議そうな顔をしてる女の子。

お客様はみんなこんな顔をするのよ、不思議ね。

女の子の足元に猫がすり寄って、いらっしゃいませと挨拶をしたわ、女の子が驚いているのが見て取れるの。


「この猫さんのお名前はなんて?」


しゃがみこんで猫を撫ぜた女の子。

わたしは答えたわ。


「さぁ、わたしには分からないわ」

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