回折
風若シオン
第1話 出会い、物語で言うなれば起。
カシュッ。静かな夜の公園にプルタブを引く音が響く。ぬるくなったコーヒーを一気に流し込んで、ため息をつく。
別に何かあって黄昏れているわけじゃない、何も無かったワケでもないけれど。
ただぼんやり日々を過ごして、高校生活最後の一年が始まっただけ。
楽しいこともあったがしんどかったことの方が多かったかな。
得体の知れない不快感がずっとお腹にわだかまっていたのが、空きっ腹へ流し込まれたコーヒーの少しひりつく感覚で誤魔化される。
空を見上げると月が出ている。
上弦の月だ、今23時くらいか。
本来夜が晴れ舞台の月が、まだ日付も変わらない夜に沈もうとしている様は、まるで僕のまだ半分も過ごしていない人生も実は終焉に近付いている、とでも揶揄しているようで嫌な気分になる。
別にただ自分の他愛ない妄想で勝手に気分を落ち込ませただけ。
時折吹く春と夏の間らしい生温い風が辛うじて爽快感を僕に運ぶ。
ここ数日、なんだか気分が沈み寝れないから夜散歩して公園で黄昏れるのが日課になっている。
こんな風に過ごしていれば何かこの世の真理でも掴めるような気がするし、刻が止まって面倒事もどこか遠くのものになってくれるような気がして、無為に時間を過ごしている。全く無駄だが、僕にはこんな
「酔生夢死な生き様とも呼べない生き様がお似合いだ……」
お似合いだ………は?
「だ、誰!?」
「寝れなくて散歩しに来たのにコーヒー飲んでるバカな少年をさっさと寝なさいと諭しに来たおねーさんだけど?」
いつの間にか白いワンピースを来た若い女性が腰まで届く黒髪を緩く風に遊ばせて、僕の後ろに立っていた。
「長い髪を振り乱して、と描写してくれてもいーんだよ?にしし!!」
「え、ちょ、ま、えと、その、え、」
怖い怖い怖いよく考えたら都市伝説のホラーに出てくるお化けみたいなカッコしてるしやばい怖い心読まれたの怖いっ、てか待ってくれ恥ずい恥ずい恥ずかしいッ!!
「あ、ああ貴女は誰ですか、別に僕が何をしてようと勝手でしょう、人の思案を憶測したりして失礼じゃないですか、それでは僕はこれで失礼しますあー、眠い早く帰r」
「無理しなくていーよ、君のポエムなモノローグは伝わってるから。大変だったね、わかるよ、あの時席座られてどいて!って言いたかったけど角立つかなとか気にして言えなかったんだよね、優しい。」
ガシッ、と腕をその細いシルエットに似合わず力強い彼女の白い手に掴まれ怖い怖い心読まれてるやっぱり読まれてるなんで怖い怖いポマードポマードポマード…ッ!!!
「あれ、考えが読めなくなった。」
ポマード効いたァ!?やっぱり都市伝説のホラーな存在さんですかァ!?
「違うって、焦らなくて良いよ。私はただあなたの話を聞いてあげるべきかな、と思って話しかけただけだよ。」
また読まれた!!ごめんなさいあんなモノローグ格好いいかなって誰に聞かせるでもないのにカッコつけちゃってたんですごめんなさ
「だから、わかってるって。全部聞いてたもの。月の下りは結構良かったよ?」
あ"。墓穴を掘って入りたい。恥ずかしい…けどなんだか楽しいぞ?なんでだろ
「そりゃ私が君の心を読んで会話してるからさ、人に話したら少しは気が楽になることもあるよ。」
そんなの対症療法でしかなくて、
「根本解決ではない、けどね?よく考えてるんだ。偉いね。だから気付きたくもないことに気付くし、わかってない人に教えて救いたくもなる。優しいんだ。」
ぽすっ、と今度は優しく抱きしめられてその良いにおいがするのとか柔らかな感触が顔に火が付いたみたいに熱くなってきたなんだか目尻が熱いなんで
「…うぁ、…あれ、」
…気付くと、僕は知らない間に涙を流していた。
泣いたのなんていつぶりだろう、それも人に見られて。
初めてここまで僕のことをわかって話してくれた人が現れてちょっとまて。
結局誰!?焦って彼女からバックステップで距離を取り、警戒しながら話しかける。
「ちょちょ、ちょっとおち落ち着いてください、結局貴女は誰なんですかなんで心読まれたんです!?!?」
まくしたてる僕を、まるで優しいお母さんのような目で見つめて、彼女は名乗った。
「君の"ヒロイン"、だよ。」
そうして今度はにっこり少し幼く微笑んで、優しく僕に言葉をかけた。
「知らない女性のことをお母さんのよう、って形容は、ちょっと気持ち悪いかもね…あははははっ、おっかしー!キモいよ君!」
そう言って軽やかに笑う、鈴を転がしたような彼女の笑い声と
―膝から崩れ落ち、さっきとは全く違う悔し涙を流す僕の嗚咽が。
静かな公園で、確かに其処に在った。1人じゃなくなった僕の頬を涼やかな風が撫でて、涙の跡を溶かして行った……
「だから勝手に自己完結して良い感じにしないでよ、ちょっと流石に行き過ぎて表現が気持ち悪くなってるよ。」
…すみません…一気に羞恥が押し寄せてくる……はずかし…
でも、これだけは確かだった。さっきまでの憂鬱さはどこかへ行って、月が低く、でもとても明るく輝いていた。
「だから君さぁ……(言葉を選ぶ感じ)」
「すみませんごめんなさいっ!(泣)」
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