愛なんていらない
umi
第1話 2人の関係
一括で買われた分譲マンションの一室に今日も明かりが灯る。
一人暮らしには少し広めの2LDKの間取りに、2人で暮らしていた時の事を少しだけ思い出した。
「え、お前らって結婚すんだっけ?」
ねーじゃん
「「は?んなわけ 」」
ないでしょ
焼き肉屋さんで一見、カップルだと思ってしまうような男女からカップルらしからぬ発言が返ってきた。
少し声が大きかったのか、隣の客がチラリとこちらを垣間見た。
「え、じゃあなんで一緒に住んでんの?」
「「だって、お金うくじゃん」」
すると2人からはまたもや息ピッタリの返答が返ってくる。
「…うーん、一応?シンが作るご飯美味しいし?家事も半分、家賃も半分だし…」
控えめに答える
洸也の友人である
「まぁ、あれだな。アズが在宅ワークだから、俺も平日は晩御飯と風呂の用意してもらえるし、なんつーかお互い条件が良かった?みたいな?」
慎太郎が梓に同意を求めるように横を見ると、梓もコクンと頷いてビールジョッキに手を伸ばした。
「いやいやいや、じゃあお前らあれか!?男女が1つ屋根の下に一緒に住んでて、何もねぇーのか!?」
だろ
「「当たり前 」」
でしょ
2人は洸也に気づかれないくらい少しだけ、ほんの少しだけ互いに目を逸らしなが答えた。
「ねぇ、この前のさ洸也の最後の質問、なんで嘘ついたの?」
リビングのソファで寝転ぶ慎太郎にパソコンで仕事をしていた梓が問いかける。
「はぁ?お前だってついてるくせに」
ソファの上から起き上がりながら慎太郎が答えた。
「私は変に関係を疑われたくなかっただけ、合理的な嘘よ」
ふーんといいながら、慎太郎が近づいてくる足音がキーボードの音に紛れながら聞こえた。
そして、梓がEnterキーを押した直後、グルリと椅子の向きを変えられ、「俺だってそうさ、合理的な嘘だよ」と耳元で囁かれた。
梓は「嘘つき」と返した。
慎太郎は少し微笑むと、梓の唇にゆっくりと自身の唇を重ねた。
開いた窓がカーテンを揺らす音で目が覚めた。
1つしかない寝室のベッドでは、梓の隣で慎太郎がスヤスヤと眠っていた。
朝日が昇る前の空を横目に、梓は床に落ちた自分の下着を拾い、薄暗闇の中でそっと身につける。
夏になりかけの少し冷たい風が肌を撫でた。
肌が露わになっている慎太郎には、無駄に風邪を引かれても困るので、ブランケットをそっとかけてやった。
寝室を後にした梓は、台所でコーヒーを沸かし、自室でパソコンを開き、仕事に取りかかった。
仕事が一段落したところで、ふと、窓から漏れる光に気まぐれに肌を重ね合う時間が案外好きだと自覚した。
朝食を食べる為、リビングに移動すると慎太郎が居ないことに気づいたが、梓は大して驚かなかった。
お互いに一度もした事はないが、朝帰りをしてもなにも気にならない。
気になってはいけないのだ、それがこの家のルール『互いに干渉しない』を守る事に繋がるからだ。
だから、私たちは互いの連絡先も誕生日すらも知らない。
仕事もなんとなくは知っているが、お互いハッキリ聞きあったことは一度もない。
まともに知っているのは、名前くらいのはずだ。
身体を重ねる事も、 共に生活することも、私たちにはただの行為でしかない。
そこに「愛」なんて鬱陶しいものも、重く煩わしいものも存在しない。
お互いに欲を満たし合う毎日を送るだけだ。
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