第52話 まるひチェック

「はーい。今日やる教科は数学だっけ?」


「暗記系はテスト直前にして、まずは理解すればできるようになる数学や物理を、先に詰めておきたいんだ」


「いいと思うー。定番のやり方だよねー」


 にへらーと笑顔で同意してくれてはいるが、ひまりちゃん本人は好きな教科から好きにやるタイプだ。


 まあ、できる人のやり方をそのまま真似ても、できるようにはならないことは、過去に痛い目を見て学習済みだ。


 できる人は多分、どんなやり方でもできてしまうから、できる人の手順そのものには意味がない。


 できない人は高望みはせずに、先人たちが編み出してきた定番の攻略法で、地道にこつこつやるしかないのだ。


 というわけで、早速ひまりちゃんに勉強を見てもらう。

 数学の宿題用の問題集をもう一度、頭から解いていく。


「えーと、これはどうやるんだったっけ……」


「ここはね、ほら、右辺を左辺に移してから、こことここでカッコでくくると――」


「あ、そっか。これで後は公式そのままなのか。じゃあ次の問題も同じだね」


「そういうこと。ね、簡単でしょ? 後はこの問題、多分そのままか、近い形で出るんじゃないかな? まるまる覚えちゃっていいかも」


「OK、そうする」


 ひまりちゃんがこう言う時は、8割くらいは本当に出題されてしまう。


 あ、これ進研ゼミでやったところだ! 的な感じだ。


 あのDMに入ってる漫画、地味に面白いよね。

 届くとついつい開けて読んでしまう。


 それはさておき。

 ひまりちゃん曰く「先生が出したくなるポイントが、なんとなく分かるんだよねー」ということらしい。


「そうしたら他の問題に時間をかけれるもんね」

「テストは時間との戦いだもんな。省エネできるところは省エネしたいよね」


 多分だけど、上辺だけなんとなく分かった気でいる僕と違って、ひまりちゃんは問題をより深いところで――おそらくは本質的に理解している。


 だから先生がテストで僕たちに問いたい・試したいことが何なのかということまで、ひまりちゃんには見えてしまうのだろう。


 後で確認できるように、僕は問題の横に赤ペンで「ひ」を書いて丸で囲んで目印を付けた。

 通称「まるひチェック」である。


「2人だけの秘密のマークだね♪ うふっ♪」


「いや、もし雪希や高瀬に出そうなところを聞かれたら、普通に言うけど? 仲のいい友だちにテストで出そうなところを聞かれて隠すなんて、僕はそんな冷たいことはしないよ?」


「今はマジレスはいらないし~!」

「あはは、ごめんごめん。聞かれるまでは、僕とひまりちゃん2人だけの秘密だね」

「えへへ、うん♪」


 ぷくーっと膨れるひまりちゃんをあやしてから、僕は続きの問題を解き始めた。


「あ、そこ計算間違いしてるよ」

「ほんとだ。ありがとうひまりちゃん」

「どういたしまして♪」


 途中でひまりちゃんのチェックでケアレスミスを直すと、綺麗に答えが導き出せた。

 さらに問題を解いていく。


「ちょっと煮詰まっちゃってるみたいだから、一度頭を整理して、もう一回、最初からやり直した方がいいかも。さっきとはちょっと違う方法でね」

「うん、そうするよ」


 消しゴムで全部消して、改めて一から解き直すと、さっきまで悩んでいたのが嘘のように、あっさりと解けてしまった。


 一事が万事そんな感じで、頼りになるひまりちゃんのおかげで、僕のテスト勉強はとてもいい感じに進んでいく。

 それに比例して僕の集中力もどんどんと高まっていった。


 集中しだしてからはミスも減り、かなりの手応えを感じながら、しばらく一心不乱に数学の問題集を解き続けていると、


「アキトくん、もう2時間経ったし、キリもいいしそろそろお昼休憩しない?」


 数学のテスト範囲のほぼ半分を解き終えたところで、ひまりちゃんが僕の肩に軽く手を置いて言ってきた。


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