第55話 遠足のしおり(1)

 それからも、僕は順調にテスト勉強を続けていった。


 普段は一人で黙々と、夜遅くまで。

 時々ひまりちゃんと一緒に、まるひチェックを授けてもらいながら。


 雪希とひまりちゃんと3人で図書室に行って、勉強会もした。


 おかげで最初の頃にあったテストへの不安はほぼ消え去り、僕的には準備はバッチリと言ったところだ。


 こうして少しだけ余裕が出てきた僕は、テスト勉強と並行してとある行動を起こしていた。

 それが何なのかと言うと――、


「へぇ、こんな中心部の繁華街のど真ん中に、神社があるんだ。生田神社……なになに? 起源は201年、ってことは今から1800年以上前ってこと……? は……? え……? なにこれ、すごくない?」


 中間テストのすぐ後に行われる校外学習のリーフレット作りだった。


 最初はテスト勉強の息抜きも兼ねて、行き先である神戸の観光スポットなどをスマホやパソコンでチェックしていただけだったんだけど。

 調べるうちに次第に神戸の魅力に引き込まれてしまい、クラスのみんなに一つでも多くの場所を見て回って欲しいと思うようになったのだ。


 そのためにリーフレット――中学までは遠足の時にホッチキスで止めた「遠足のしおり」があったよね――を作り、効率的な神戸観光ができるように、お勧めルートなんかを用意できればといいなと考えたわけだ。


 既に担任の鈴木先生からは、印刷やら配布やらの許可は貰っている。


 むしろ「すごく面白いアイデアじゃない。いいわよ、思う存分やりなさい。学年主任にも話は通しておくから」と背中を押してもらえた。


 だから後は、僕がリーフレットの原本を作るだけでいい。


「神戸の街はかなりコンパクトにまとまっているけど。だからこそ、どこに何があるかが分からないと、結構行ったり来たりして時間を浪費してしまいそうな構造なんだよね」


 それぞれが近いところにあるが故に、あまり考えずに行きたいところを回ろうとすると、無駄な移動でかなりの時間を喰ってしまう可能性がある。


 しかも厄介なのが、繁華街や住宅地のど真ん中に、有名な観光地がいきなりあるみたいなのだ。

 気付かずに通り過ぎる可能性や、そもそもたどり着けない可能性も考えられた。


 1日で全部を見て回るのはもちろん不可能だから、どこを見るかの取捨選択は必要だけど、移動で時間を浪費して見れなくなるのは、それ以前の問題だと思う。


「大まかな方向性としては、JR三ノ宮駅の北側と、南側の観光スポットをそれぞまとめるでしょ? 人気が高そうな神戸ハーバーランドも、他の観光スポットからは少し距離が離れているから、ここも別個でまとめないとだし。あとは神戸須磨シーワールドや王子動物園、神戸どうぶつ王国に行くなら、1日がかりになるかなぁ」


 僕は神戸の観光について検索して、グーグルマップを見て、また検索して、グーグルマップを見て、という作業を繰り返して、神戸の街の大まかな観光スポットの場所を掴んでいった。


 とは言え、そもそもこれはやらなくてもいいことだ。

 僕が遠足のしおりを用意したとして、クラスのみんながそれを利用する義務もない。


 ただ、僕自身がちょっとワクワクしてるのもあったし、せっかくクラス委員になったんだから、何かしらの活動をしたいなって気持ちもあって、行動へと移したのだ。


 つまり突き詰めれば僕の自己満足でしかない。

 だけどきっとこの自己満足を、役に立つと感じてくれる人もいるはずだから。

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