第21話 第2回ひまりタイム

◇ ひまりタイム ◇


 その日の夜。


 宿題やら明日の用意やらなんやらをバッチリ終えたわたしは、自分のお部屋のベッドで寝転がりながら、今日ゲットしたばかりの最新動画の観賞会を行っていた。


「むふっ、むふふふ──」


 スマホで見ているのは今日行ったカラオケで、アキトくんが熱唱している姿だ。


 アキトくんが流行りの曲を一生懸命歌っている。

 めちゃくちゃ格好よかった。

 格好よすぎて、何度見返してみてもニヤニヤが止まらなくて困る(困らない)。


 もちろん、歌そのものは上手いか上手くないかで言えば、可もなく不可もなくなんだと思う。


 だけど画面の中のアキトくんは、すっごく輝いていた。

 歌が上手いかどうかなんて関係ない。

 もうキラキラしていたから。


「入学式の日から、アキトくんってば昔に戻ったみたいだよね。一生懸命ですっごく素敵」


 何か切っ掛けでもあったのかな、と少し気にはなったけど、ひまりちゃんとアキトくんの愛のメモリーをどれだけ掘り返してみても、思い当たる節は見当たらなかった。


 多分だけど、アキトくんに備わった内なるキラキラパワーが、アキトくんに輝くことを求めたのだ。

 きっとそうだ。

 わたしは妹なのでわかるのだ。


「最近の控えめで落ち着いたアキトくんも悪くなかったけど。やっぱりアキトくんと言えば、こうじゃなくっちゃね♪」


 周りのことなんて関係なしに、自分が正しいと思ったことをする。

 虐められていたわたしを助けてくれた、わたしの王子様。


 わたしはカラオケの映像を無限ループして王子様アキトくんを堪能した。



「さーてと、そろそろアキトくんが寝る時間だよね。今日もアキトくんと一緒に寝ようっと♪」


 え?

 アキトくんに昨日『今日だけだよ』って言われただろって?


 チッチッチ!


「アキトくんは口ではダメって言っても、わたしがお願いするとすぐに『しょうがないな、ひまりちゃんは』モードになって、一緒に寝てくれるんだよねー♪」


 アキトくんは、ダメなことはどれだけ甘えても絶対に折れてくれないタイプなので、つまり甘えさせてくれるってことは実質ウェルカムってこと!


 はい、論破!

 ふふふ、わたしがアキトくんと何年一緒にいると思ってるのさ?


 わたしは壁に耳を付けて、隣の部屋――アキトくんの部屋の様子を窺った。

 そして少し待ってタイミングを見計らうと、枕を持って部屋を出る。

 そのまま、アキトくんのお部屋へと向かった。


 コンコン。

 ノックとほぼ同時にドアを開けると、ベッドの上に横になったアキトくんと目が合った。


 ふふん。

 さっき少し待ったのは、アキトくんが寝るタイミングを見定めていたんだよねー。


 というのも、アキトくんは寝る前に必ず、5分ほどストレッチをしてから、明日の準備を再チェックするという習慣がある。


 ストレッチの時にベッドが軋む音がわずかに聞こえるので、一度そうと分かってしまえば、タイミングを計るのは楽勝だった。



「こんな時間にどうしたのひまりちゃん?」

「今日も一緒に寝たいな? ダメ?」


「ダメに決まってるでしょ。僕たちもう高校生だって言ったよね?」

「どうしても、ダメ?」


「だーめ」

「新しい環境で不安なの」


「とてもそうは見えなかったけど……。勉強も余裕そうだし、カラオケはノリノリだったし。むしろ新入生の誰よりも楽しそうに、高校生活をエンジョイしていたよね?」


「だめ、アキトくん……?」

「……まったくもう。ひまりちゃんはしょうがないなぁ。ほら、おいで」


「やった♪」


 ほら、ね?

 アキトくんってば、わたしに甘々なんだから♪


 わたしは今日も今日とて、アキトくんのベッドに入り込むことに成功する。


「本当に今日だけだよ」

「はーい!」


「返事だけはいつもいいんだよなぁ……」

「えへへ~♪」


 笑って誤魔化しながら、アキトくんの左腕を抱きしめながらピトッとくっつく。


「ま、ひまりちゃんらしいけどね」

「ぬくぬく~♪」


 こうして今日もわたしは、アキトくんと一緒におやすみしたのでした。


◇ ひまりタイム END ◇

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