第7話 仲間達
扉を開けた先に広がっていたのは異様な光景だった。教室の後方に人ならざる者達がずらりと並んでいたのだ。
犬、猫、ヤギ、馬、ゴブリン、オークと……。
ゴンゾウはその真ん中に陣取り、得意気な表情をして座っている。その隣には誰も座っていない机、つまりプリシアの席があった。
プリシアが教室に一歩足を踏み入れると、生徒達の視線が一斉に集まった。「貴方の騎士でしょ! ちゃんと躾なさい!」という抗議の意味が込められている。
プリシアは小さな身体をさらに小さくしてゴンゾウの側へと向かった。
「ゴンゾウ! これはどういうことよ!」
怒りで身体を震わせながら声を張り上げる。
「大声を出すな。仲間達が驚く」
ゴンゾウは人ならざる者達を庇うように手を広げた。その背後では芝居じみた様子で体を震わせる犬、猫、ヤギ、馬、ゴブリン、オーク。
「仲間?」
「そうだ。プリシアは仲間が欲しかったんだろ? だから森の動物達をつれてきた」
プリシアはゴンゾウの背後に並ぶ者達を見渡す。緑の小鬼と豚面の巨漢が目に付いた。
「ゴブリンやオークはモンスターでしょ! 動物じゃないわ! 今すぐ教室の外に出して!!」
ゴンゾウは難しい顔をして反論をした。
「動く物は全て動物だろ?」
屁理屈であった。漢字覚えたての子供が言うような。
ゴンゾウの精神年齢は低い。これは中学卒業と同時に無人島に隔離された弊害であった。成長を身体とサバイバル能力に全振りした為、心が子供のままだった。
「とにかく教室から出して! 授業にならないでしょ!」
「授業にならないでしょ!」という言葉がゴンゾウの中学生の頃の記憶を蘇らせた。盗んだバイクで教室に乗り込み、空ぶかしをしていると担任の女教師に「授業にならないでしょ!」と激しく注意されたのだ。
その時の感情がゴンゾウを支配した。下を向き、卑屈な顔をする。
「いつも大人はそうやって俺達を排除しようとする……」
「ゴンゾウも大人でしょ! なんなら教室の中で一番歳上でしょ! いいから、先生が来る前に早く動物を外に出し──」
ガラガラと音がして、教室前方の引き戸が開いた。講師のバイオレットが教壇に向かって歩く。そして教室を見渡した。
「……」
唖然として言葉が出ない。教室の後ろに動物とモンスターが並んでいるのだ。そしてその前にはゴンゾウ。ダメージ数53万の男が庇うように手を広げている。
ここで、今まで静かにしていた第二王女シャルロットが口を開いた。
「先生! ゴンゾウとモンスター達を教室から排除してください!」
バイオレットの顔は直ちに蒼白になる。彼は恐れているのだ。ゴンゾウのことを。もし暴れでもしたら、国が崩壊する可能性すらあると考えていた。
「……う、うむ」
額に冷や汗を浮かべながら、バイオレットは曖昧な返事をした。それを聞き、第一王女エカテリーナが眉をひそめる。
「先生? 何を躊躇ってらっしゃるのですか? 今すぐ憲兵を呼んで、ゴンゾウ達を教室から出してください」
憲兵など呼んだら一大事になる。バイオレットはなんとかやり過ごそうと、苦し紛れの理論を展開した。
「……こ、これからは多様性の時代だ……。動物やモンスターにも貴族と同じ教育を受ける権利があると、私は考えている……」
無茶苦茶である。
「そうだ! タヨウセイだ!」
ゴンゾウが賛同した。もちろん、多様性が何を意味しているかは理解していない。ただ野生の感で乗っかったのだ。それが功を奏する。
何人かのインテリ貴族が「確かに今は多様性の時代……」と呟いたことから、教室の雰囲気がガラリと変わった。
動物やモンスターを受け入れないのは「遅れた感覚」という妙な空気が蔓延し、エカテリーナとシャルロットも黙ってしまった。
貴族という生き物は新しいモノ好きであり、自分達が最先端を行っていると思っているのだ。
もう誰もゴンゾウの仲間達を追い出せとは言わなくなった。
そしてバイオレットは授業を開始した。内容は魔法理論についてだったが、途中でゴブリンとオークが喧嘩を始めてしまい、それどころではなかったことを記しておく。
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