無人島育ちの野人、乙女ゲー世界に転移する。学園ファンタジーなのに校庭でサバイバルして世界観をぶち壊す!

フーツラ@発売中『庭に出来たダンジ

第1話 野人、乙女ゲー世界に転移する

 ゴンゾウ、二十五歳。職業、野人。


 中学時代は手が付けられない不良だった。一般社会で暮らして行くことは無理だと、実の両親が判断するほどに。


 中学を卒業した日の夕飯。両親は彼の好物であった寿司に睡眠薬を仕込んだ。


 ゾウが昏倒するほどの量の薬を盛られ、ゴンゾウはダイニングテーブルに突っ伏した。


 その後ロープで縛られ、親族が所有する無人島に隔離された。与えられたのはサバイバルガイドブックとリュック一つ。


「ここなら誰にも迷惑はかけない。お前が真人間になった頃に迎えにくる」


 朦朧とした意識のゴンゾウが最後に聞いた父親の言葉だ。



 それから十年。ゴンゾウは無人島で生き抜いた。


 逞しく成長し、身長は二メートルを超えている。鋼のような筋肉を持ち、山ではイノシシを張り手一発で倒し、海では人喰いサメを頭突きで仕留める。


 ゴンゾウは真人間に更生するどころか、超人へと進化を遂げていた。



 その日は激しい雨だった。


 全裸で暮らすゴンゾウは雨を嫌っていた。海に入って濡れるのとは別の冷たさがある。


 出掛けるのをやめ、住処にしている洞窟の中で、伸び切った髪や髭を唯一のサバイバルナイフで切り揃えていた。


 あっという間に日は暮れる。


 燻製にしていたイノシシ肉を五キロほど食べると、葦でつくったベッドにゴロンと転がった。程なく、寝息が聞こえ始めた。



#



 背中の感覚の違いに、ゴンゾウは目を覚ました。お気に入りの葦のベッドで寝ていたはずなのに、おかしい。


 視界には高い天井が見える。シャンデリアだろうか? 豪華な照明がチカチカと眩しい。


「あ、あの……」


 若い女の声がした。人形のように整った顔の緑色の髪をした美少女がゴンゾウを覗き込んでいる。


「なんだ?」


 上半身を起こしながら答えると、女は飛び飛び退いた。


 ゴンゾウはキョロキョロと部屋の中を見渡すが、状況が掴めない。髭を扱き、首を捻った。


 若い女はその後ろに立つスーツ姿の老人とヒソヒソと相談を始める。


『爺……。イケメンの騎士様が召喚されるはずではなかったの?』

『そのはずですが……、何か手違いがあったようです』


 二人は狼狽えている。


『召喚をやり直すことは出来ないの?』

『もう召喚石がありません……』

『えっ……! じゃあ、私はこのゴリラのような男を連れて王女学院に入学するの? そもそも裸よ? また、お姉様達に馬鹿にされてしまうわ……』


 若い女は眉を下げる。


『異世界の騎士を連れて入学式に臨むのが、ルールですので仕方がないかと……。もしこれを破ると、女王への道が閉ざされてしまいます』

『それはマズイは……。私は亡くなったお母様に女王になることを誓ったのだから……』

『とにかく、話してみましょう。見た目はともかく、中身は立派な騎士かもしれません』

『そうね……』


 女は気を取り直したように姿勢を正し、ゴンゾウに向かって挨拶を始めた。


「よ、ようこそいらっしゃいました? 異世界の騎士様? 私の名前はプリシア。メーメル女王国の第三王女です」


 知らない単語が並び、ゴンゾウは眉間に皺を寄せた。


「異世界の騎士? おれはゴンゾウという名前だ。お前が俺を呼んだのか?」

「はい! 私が召喚石で呼び寄せました! 明日から騎士様は私と王女学園に行って女王への道を目指して頂きます!」


「王女学園……女王を目指す……」とゴンゾウは呟き、急に頭を押さえた。


 まだ人里で暮らしていた頃の記憶が蘇る。


 ゴンゾウには一つ年下の妹がいた。両親や周りの人々が彼のことを恐れる中、妹だけは普通に接していた。


 妹は引きこもりがちで、家でゲームばかりしていた。ジャンルはいわゆる乙女ゲー。


 女主人公がイケメンヒーローと恋愛をしながら、目的を達成するようなものだ。


 その中でも妹が特にハマっていたゲームがあった。タイトルは『イケメンKNIGHT!』。


 プレイヤーは王女となり、異世界から召喚したイケメン騎士と一緒に女王を目指す! という内容だったはずだ。


 よく似ている。


「プリシアの歳はいくつだ?」

「15歳です」


 ゴンゾウが無人島に隔離された年齢と同じだ。


「あの? 私と一緒に学園に通って頂けますか?」


 腕組みをして、ゴンゾウは考え始めた。まともに学校に行った覚えのない自分が、大人になって青春をやり直すのは、悪くない経験に思えた。


「水はあるか?」

「えっ?」


 完全に想定外の質問。プリシアは固まる。


「学園に水はあるかと聞いている。水がないところでは生き延びられない」

「もちろんです! ちゃんと水はあります!」


 ゴンゾウは再び考え込む。


「動物は?」

「鶏や兎が飼育されています」

「数は?」

「えっ、数ですか? 五羽ずつぐらいかと……」


 唸るゴンゾウ。


「足りないな。一日で食べ終わってしまう」

「えっ!? 食べるんですか?」

「この世界では動物を食べてはいけないのか?」

「いえ、そんなこともないですが……」


 プリシアはしどろもどろになった。


「まぁいい。食料のことは何とかする。で、その王女学園というのはどこにある?」


 ゴンゾウは立ち上がり、窓の外を見る。その背の高さに、プリシアは驚き目を丸くした。


「ええと。方角的にはこっちです。広大な敷地なのですぐ分かると思います」


 プリシアは北を指差した。


「わかった。では明日、学園で会おう」


 そういうとゴンゾウは窓ガラスを突き破り、外へと飛び出した。そのまま駆け出し、すぐに姿が見えなくなる。


「爺……。裸のまま行ってしまったわ」

「そうですな……。明日、念の為に男物の衣服も用意して学園にいきましょう」


 プリシアと世話役の執事は憂鬱な気分で入学式を迎えることとなった。






 

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