夜の檻

菜月 夕

第1話

 走っている。彼女は後ろをちょっと振り返り、青ざめて走っている。

 彼女の後ろは薄暗闇で何人もの人影が。同じような格好をしているのは判る。兵隊だろうか。

 そして彼らは彼女に向けてゾンビのように不気味に手を上げる。

 すべてが薄暮の中、彼女だけが私の目に飛び込んで来る。助けに行かなくては。

 タイムマシンを完成してその行き先を選定しようと過去を覗いていたら彼女を見つけた。

 私は早速タイムマシンを起動した。あそこに着いたら彼女の手さえ取れば過去から彼女を救い出せる。

 起動した。彼女が前に居る。私は彼女に声をかけようとした。

 彼女はこちらを見たと思うと青ざめて逃げ出した。

 何故。ふと見回すと周りにはこの現在から分岐した可能性の未来の私が全員この現在に彼女を助けに来ているのだ。

 いや、私こそが彼女を助けに来た未来の私だ。

 私は彼女を助けようと手を伸ばした。あの過去を覗き見た時の影のように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜の檻 菜月 夕 @kaicho_oba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る