第10話 親父からのメッセージ
「こんなものでどうしろと?」
突然目の前に現れた荷台と木馬を前に呟く。
俺がウェンディに風魔法でふっ飛ばされた時に折れた木々の空間にそれは鎮座していた。
「これは・・・何かな?ウェンディさん?」
「これは何かしら?ワタル?」
木でできた荷台は全長3メートル、横幅2メートルほど。4つの車輪が付いており、こちらも木製のようだ。まさにこれで何かを運んで下さいと言っているような物だ。
荷台の先端には御者台がついている。
一方、存在感を放っているのが木馬だ。
大きさは、以前付き合いで同僚の佐々木と行った競馬場で見たサラブレットよりも一回り小さい。
全体的に黒っぽい茶色で見たまんまの木馬だ。全く動かないので巨大な置物みたいで不気味。
「・・・馬車みたいね。動かないけど」
「・・・みたいだな。ウェンディ、触ってみろよ。きっとこれは、ウェンディへの贈り物だ」
「なんで私なのよ!あなたが触りなさいよ!」
危険物には、「近づかない、触らない、匂いを嗅がない」が鉄則だ。まして、異世界だから慎重になるのは仕方ない。
「ウェンディはもしあの木馬に噛みつかれても、魔法で吹っ飛ばせるだろ?か弱い人間の俺は死んでしまうぞ!」
「私だって死ぬわ!ボケ!」
言い争うことしばし・・・
「ふー。こうしていても仕方ない覚悟を決めるか」
俺は恐る恐る荷台に触れてみた。
ブンッ
〈七星ワタル様をオーナーに設定しますか?YES or NO〉
突然目の前にディスプレイが現れた。
「うわっ!何だこれ?」
「何かの魔法なの?なんか書いてあるよ」
「俺をこの馬車?のオーナー・・・所有者にすることができるみたいだ」
とりあえずYESを選択してみる。
〈七星ワタル様をオーナーに設定しました。各種機能が使用可能となりました〉
「ねぇどうなったの?所有者になったの?」
「なったみたい。でもどうすればいいんだ?各種機能ってなんだ?」
相変わらずこの謎の木馬は動きそうもない。いきなり動き出したら嫌だけど。
「あっ!何かある」
何かを見つけたウェンディは荷台の方へ行き、二枚の紙を持ってきた。
手紙のようだ。
一つは日本語で書かれており、もう一つは知らない文字だけどなぜだか意味は分かる。
「どれどれ・・・まずは日本語の方を見てみるか」
「「いよ〜ワタル!無事異世界に行けたみたいだな!早速、楽しんでいるようで何よりだ。」」
親父だ!
とてもキレイとは言えない字で書いてある・・・むしろ象形文字に近い癖のある字は間違いない。
「ねぇねぇこれホントに文字なの?ミミズのような絵みたい。」
・・・これを書いたのはアナタの憧れの金髪イケメン勇者の七星ガンテツです。ひどい言われようだぞ親父。
「「初日から妖精と契約するなんてさすが俺の息子だ!これで女にモテないなんて悲しいぞ。」」
ぐっ・・・破り捨てたくなった。
「「さて、異世界アトランティスで快適生活を送るために、格好良くて、素敵なプレゼントを用意した。眼の前にある馬車は精霊馬車だ!精霊馬車は超絶すごい機能と、あっと驚く仕掛けが満載だ!これでモテること間違いなし!むしろモテないと俺は悲しむぞ!それじゃまたな!
ガンテツ 」」
バリバリッ
俺は無言で手紙を破り捨てた。
「馬車の名前しかわからねーよ!!後半俺の悪口だし!」
「突然怒り出してどうしたの?ねぇ何が書いてあったの?」
「これは精霊馬車っていうみたいだ」
「それだけ?」
「それだけ。あまりにも汚い字だから破り捨てた」
「あなた怒りやすいのね。それじゃもう一枚読んでみようよ。・・・あっこれは私でも読めるわ!」
ウェンディが読んでいる手紙を覗き込む。
「「拝啓 初夏の候、梅雨明けが待ち遠しい季節となりました。貴殿におかれましてはますますご活躍のこととお慶び申し上げます。
ワタル様は今頃「馬車の名前しかわからねーよ」と叫び、お困りのことでしょう。」」
「かた!文章かたっ!」
「預言者なの?書いた人預言者なの?」
俺とウェンディが同時に叫んだ。
間違いない。これを書いた人はエルザさんだ。内容が全く無い親父の手紙をフォローしてくれるようだ。
「「お届けした馬車は精霊馬車と呼ばれるものです。ガンテツ様があなた様の為にお作りになりました。なんでも地球のトラックをイメージしたそうです。
精霊馬車には様々な機能がありますので、ウィンドウを開き、取り扱い説明から使用方法をお確かめ下さい。
最後に、ガンテツ様からのメッセージです。「これをお前の仕事に役に立てろ」とのことです。どう扱うかはワタル様次第です。では、よき異世界ライフをお楽しみ下さい。
これから暑くなる季節となります。どうぞご自愛下さい。 敬具
エルザ」」
なるほどね。これを使って仕事をしろってことか。
俺は、ハルカの結婚式の時に新しい仕事をすることを決意した。
何の役に立つか分からないが、精霊馬車とやらを使って異世界で就職活動をしてやろうじゃないか。
早速、ウィンドウを開く。
〈木馬に手を触れ登録作業を開始して下さい〉
「この木馬に触れるだけで良いのか?」
「そうみたいね」
ゆっくりと手を伸ばし、立髪辺りに手をおいた。体の中にある何かが吸い取られる感覚がする。
パアァァァァ
木馬が光り、辺りを染めていく。
「うぉ!何だ!」
「キレイね〜」
やがて徐々に光が収まると、見事な毛並みの一頭の馬がいた。
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