本たちが喋った!?

 私が初めてこの学校の図書委員会に入ったのは去年の春。中学校1年生になったばかりの頃。私は小学生の時から本が大好きだった。『長靴のピッピ』や『あしながおじさん』とかの昔からあって有名な作品はもちろん、『ぼくらの七日間戦争』とかの私が小学生の時に流行っていたものや、それこそ、少し難しい『はてしない物語』や、『ハリー・ポッター』、『指輪物語』とかの長編ファンタジーまで、なんでも読んでたの。だから


「中学生になったら絶対に図書委員会に入るぞ!」


 って決めていたの。そうして図書委員会を決めるときに、他にもなりたい人がいて、じゃんけんになったけど、すっごく頑張って、5回連続あいこをした末に勝って図書委員になれたんだ。


 でね、初めての委員会のときに私は図書室で『魔法』を見たの。

信じられないかもしれないけど図書館の本たちがみんな小さな声でボソボソ喋りだしたんだ。普通に耳から聞こえる言葉じゃなくて、頭に響いてくるようなそんなおしゃべり。小さい言葉だったけど声はしっかりと聞き取れたんだ。なんて言っているのかはわからなかったけど。


 だから不思議に思ってその時の委員長の明音あかね先輩と司書の先生の佐々木さんにその事を話してみたの。

最初は


「そんなのは聞き間違えだよ」


 なんて言われると思っていたのに、話してみると、二人とも顔を合わせて笑ったんだ。でも明音先輩はなんだか嬉しそうに


「佐々木さん。ほらね。ここの図書室の本たちはみんなおしゃべりをしているんだよ」


「本当だね。そうか…栞ちゃんには聞こえるのね。本たちの声が。残念だけど私には聞こえないんだ。でも明音ちゃんも栞ちゃんも2人が聞こえるっていうのなら本当だね」


って。

 

 それから私は明音先輩とたくさん話をして、本たちの声をたくさん聞いて、本たちにたくさん話しかけたんだ。

そうして2年生の冬になって、私はついに本たちと『おしゃべり』することができたの。不思議だし、嘘かもしれないけど本当なの。


 ある日の放課後、私は1人で図書室に残って春の図書室の飾りつけの準備をしていたんだ。


「なにか良い飾りはないかな?」


そう私が芸術の本がある本棚の近くでポツリとつぶやいたら、


「栞ちゃん。こっちこっち。 私が一番春に似合う飾りを知っているよ」


 って声が聞こえてきたんだ。

いや、頭の中に響いてきたって言ったほうが正しいかな。でもその声はいつもみたいになんて言っているのかがわからないような言葉ではなくて、しっかりとなんて言っているのか理解できたんだ。

 

 そうしてその声がする方に行くと、『折り紙図鑑』が少し震えて光っていた。見間違いじゃなかったと思う。驚いて目をこすったけどたしかにそれは光っていたんだ。


「あなたが私を呼んだの?」


「そうよ、栞ちゃん。やっとあなたに声が届いた。 あなたが私たちの声を聞けているのには気づいていたけど、あなたにしっかりと私達の言葉を届けることはできていなかったんだ。良かった。 やっとあなたの役に立てる。そしてこの世界を救える。

ねえ、みんな!そうでしょ」


そうすると図書館中の本が一斉に何やら話しだした。


「ねえ、栞ちゃん。知ってる? 私たち本はみんな意思を持っているのよ。 

私たちは行きたい場所に行けるし、好きな持ち主のところへ行ける。 

誰かに、自分が必要だって思った本はその人のところへ行けるの。」


「うん。」


「でね。私たち、この図書館にいる本たち全員はあなたを待っていたのよ。 

別に大きい図書館であなたを待っていても良かった。でもね、ここに居ればあなたと必ず話すことができる…そう、わかっていたのよ。あなたには私たちを使ってこの学校の子達を助けてもらいたいの。この世界では本を読む子供がどんどん少なくなっていて、そして本の想像力っていう力を持っていなくて困っている子供がたくさんいる。だから私たちは私たちと会話ができる、本が好きで想像力が豊かな子を探していたの。 いきなり世界中の子供達を助けるのは無理だから、まずは身近なところから。だからこの中学校の図書室を選んだんだ。ねえ、私たちと一緒に世界を救ってくれる?」


「なんか、よくわかんないけど私の力が必要なんでしょ?何をすればいいかわかんないけど…いいよ、私頑張る」


「そうこなくっちゃ。あっ、ごめんね。まずは飾りつけの準備をしちゃいましょう。目の前の小さなことから一歩ずつ、少しずつ。この世界を綺麗に救っていくのよ。

私の86ページを開いて頂戴。簡単に作れる折り紙の桜の作り方が載っているわよ」


 私は『折り紙図鑑』の86ページを開いてみると、そこには桜の花の作り方が載っていた。


「本当だ! かわいい!」


 そうして私は『折り紙図鑑』さんに勧められた桜を作って、その日は帰ったんだ。

帰り際に


「明日からよろしくね」


って言われて。なんだかその日は不思議なふわふわした優しい気分で家に帰ったの。

明日から何が起こるかもその時は知らなかったの。

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