第51話:平穏な日々?
あの後、パーティー会場にやってきた国王夫妻に、ミハエルはぎっちぎちに締めあげられたらしい。
まず、卒業パーティーという場で、誰にも何の断りもなく、『王太子だから』と我儘を通すとは何ごとか!!と怒鳴られ、反論しようとしたミハエルだったそうだ。だって自分は王太子なのだからそれくらい良いはずだ、自分の通っている学園は王立学園なのだから、その権利がある!と言った途端、王妃からこう冷たく言われたそうだ。
「お前が建てたわけでもなく、運営しているわけでもない。王太子であるけれど、諸外国からきらわれているお前がどうしてそこまで自信満々にいえるのでしょうね」
これを聞いたミハエルは、絶対の味方であったはずの母親から見限られたことを、きちんと悟った。
王妃ジュディスは、一緒に叱っていたアリカに視線をやり、またもや冷たくこう続ける。
「一緒に過ごす期間が長くなっていくからこそ、お前はミハエルを御し続ける必要があるの。フローリア嬢はこの苦行に耐え続けてきたけれど、お前がフローリア嬢の悪い噂を意図的に流したことで、フローリア嬢がショックを受けて学園に通えなくなってしまったことの責任はとる必要があるのは理解しているわね?」
「……は、い」
顔面蒼白なアリカは、ここまでの大事になってようやく自分の取ってきた行動の浅はかさに気付いたようだが、言葉通りの『時すでに遅し』でしかなかった。
時を戻すことができない以上、自分で蒔いた種がここまで成長してしまったのだから刈り取るしかない。
王妃は更に続ける。
「王太后さまから『ミハエルが望むのだから』と王太子妃教育の予算を自費で賄われている以上、逃げられないということについても、理解はしておりますね?」
「はい……」
喋れないなら喋ることが出来るようになるまで徹底的に、普段の言語までもを喋れないものに変えて、日常生活で無理矢理使わせるようにすればいい、というスパルタな方法で今アリカは言語の習得を頑張っている。
フローリアに対しての態度の悪さはさて置いて、努力家であった彼女はどうにか必死に食らいつこうとしているのだ。
超天才肌がゆえに『努力』を理解できないミハエルだが、さすがにここまでアリカが努力をしていると、ほんの少しだけだが理解はしてくれてきているらしい。
こんなにも努力しないといけないものなのか、とぽつりと呟いたとき、教育係からこう反論された。
「殿下は幼いときに習得されており、日常的にご利用されている外国語でございます。殿下、ご自身ができるからと人の努力を馬鹿にするようなことはしてはなりません。人は皆、それぞれにお得意なことはことなっているのですから。それに」
続けた教育係は、とてつもない爆弾を投下した。
「殿下は人付き合いが壊滅的でしょう。それから、人の気持ちを察することが出来ず、これまで何年間シェリアスルーツ侯爵令嬢の手を借りてきたのですか?」
笑顔で突かれたくないところを容赦なく突いてくる教育係を睨んでみても、一切のダメージは無かったらしい。なお、更に続けられてしまった。
「実際、殿下がやり取りをするようになってから、以前のような雰囲気ではなくなっているのは、ご理解できておりますか?」
にこにことしたまま言われてしまい、ミハエルは心当たりしかないため、黙り込んでしまう。
「殿下、人を責めるときだけ饒舌になる、というのは良くありませんよ。これからも、精進なさいませ。アリカ嬢は今後もよろしくお願いいたしますね」
「は、はい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ということがあったそうだ」
アルウィンの報告に、シオンもフローリアも大して興味がさ無そうで『はぁ……』とか『へー』しか返ってこなかった。
「もうちょっと興味を持て!」
「だってお父様、ミハエル殿下って結局のところ自業自得でございましょう?」
「フローリア、確かにそうなんだが」
「今更自分にあれこれ何もかも返ってきてるだけじゃない。わーんおばあちゃま助けてー、ってどうせあのボンクラ告げ口するに決まってるでしょ」
「何でシオン様は普通に我が家にいるんですかね」
「ダドリーが入れてくれたわ」
おいダドリー!と叫んでいるアルウィンをあっはっは、と笑いながら見ているシオンの隣に寄り添うように座っているフローリア。
これが最近の普通になりつつあるシェリアスルーツ家。
現在、卒業パーティー終了から一週間後。
卒業式を控えているだけのフローリアたちだが、今はやることもないので休暇状態。
しかしシオンは形だけとはいえ王族なのだからたまに公務に(無理矢理に)引きずられていっている。継承権を放棄したとはいえ、シオンがいるからこそ成り立っている業務もあるのだから、とジェラールが駄々をこねるように言ってきて、フローリアは思わず『ミハエル殿下ととってもそっくり!』と感心したとか何とか。
「ミハエル殿下に関しては自業自得としか思わないので、正直どうでも良いのですけれど……」
「フローリア、お前のそういう容赦ないところ、お父様は大好きだぞ」
「王太后さま……ヴィルヘルミーナ様はお静かなのですか?」
「あー……」
フローリアからの質問に、アルウィンもシオンも何故か各々視線を逸らしてどこかを向いてしまった。
変なことを聞いてしまったのだろうか、とフローリアが考えているとシオンは言いにくそうにがりがりと頭を掻いた。
「静か、っていうか……あの人、表向きには何考えてるか分からないのよねぇ……」
「先代陛下への愛と、執念で生きているような方だからな」
「し、執念」
「ミハエル殿下も国王陛下も、先代陛下にそっくりなんだよ」
そこまでは知らなかったフローリアは、『え』と思わず声をあげてしまった。
先代国王は、流行り病で若くして命を落としていた。王亡き後、必死にこの国を守り、導いたのが当時の王妃であったヴィルヘルミーナである。
亡き夫の形見でもある、シオンとジェラール。
二人はそれぞれヴィルヘルミーナと先代国王に似ていたのだが、夫へのとてつもなく大きな愛が故に、ジェラールがとてつもなく可愛がられ、王太子となり、現在の国王となっているわけだが、王太子時代のジェラールは母に溺愛されるがあまり、シオンとの距離の取り方がとても下手だったらしい。
今も下手だが、当時はこんなものではなかったそうだ。
「見た目で……という性格はミハエル殿下にしっかりと受け継がれていらっしゃるのですね」
「そういうことよ」
「まぁ、結果的に破棄してくださって助かりましたけど」
言いながら、フローリアはこてりとシオンにもたれかかり、頭をシオンの肩へと乗せる。
しっかりとこうして甘えてくれるのは、とても可愛い。
このまま平和が続けば良いと、そう思っていたのに。
「旦那様ー!! フローリアお嬢様ー!!」
ダドリーの焦った声に、三人は顔得お見合わせた。
もう既に嫌な予感しかしない、と表情を曇らせていれば、一通の手紙を持っているダドリーが三人いる部屋えと勢いよく駆け込んできた。
「王太后様より、登城せよとの命令が!!」
そして告げられた内容に、大きな溜息を吐いてしまった。
「……儚い平和だったわね……」
ぽつりと呟かれたシオンの言葉に、フローリアもアルウィンも、重く頷くことしかできなかった。
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