第21話:お茶会で情報収集(皆が教えてくれる)①
「フローリア!」
「リア、お元気にしていらした?」
「やだもう、リアの顔色が最高によろしいわ!」
「本当ね!婚約破棄宣言されてから、生き生きとしているもの!」
皆、人を一体なんだと思っていたのかしら…と、内心ツッコミを入れるフローリアは、友人たちが来てくれたのでそんなことは早々に忘れ、ふにゃ、と嬉しそうに微笑んだ。
「皆様、来てくださって本当にありがとう」
「いいのよ、学園をお休みしているんだし、こうでもしないと大好きなフローリアに会えないんだから」
「そうよ~!」
わっ、と友人たちはフローリアに駆け寄って、思い思いにハグをしてくれたり、手を握ってくれたり、と心配りをしてくれる。
友人たちの優しさが身に染みるし、こんなにも嬉しいことはない。
「お嬢様がた、さぁさ、こちらへいらしてくださいませ」
メイド長が令嬢たちに声をかければ、皆がそちらに視線をやった。
四阿の下にセッティングされたテーブルに用意された、色とりどりのタルトやフルーツがふんだんにあしらわれた生クリームたっぷりのケーキ、生フルーツ、そして口直しの一口サイズのサンドイッチ、更にはクッキーなどまで、ずらりと取り揃えられている。
わぁっ、と令嬢たちが嬉しそうに駆け寄って、フローリアを中心に皆が着席した。
人数は全部でフローリア含め、四人。友人たちはさんにんいるが、それぞれ以下の通り。
ルサルカ伯爵家令嬢・アマンダ。
ツェルリム侯爵家令嬢・リーリャ。
そしてアヌーク男爵家令嬢・ジュリエット。
アマンダの家は代々文官の家系で、アマンダ本人も卒業までに初級文官の資格を取得し、卒業後は王宮で働く予定になっている。結婚は貴族の義務だとは分かっているけど、タイミングもある!と本人が婚約者に待ったをかけ、婚約者も理解を示してくれたらしい。何とも良い人だ、とフローリアはしみじみ思った。
そしてリーリャは卒業後、パーティーで出会って意気投合し、ツェリヌム侯爵家が行っている貿易業の助けになりたいと婿養子になることを自分から提案してくれた男性と結婚することが決まっている。婚約をすっ飛ばして結婚までいけたのは、互いの両親が意気投合したことに加え、本人同士の熱愛が主な要因だろう。
最後、ジュリエットは仕事に生きる!と自分を明確に持ちすぎていたこともあってか、そもそも親が用意した婚約者とは気が合わず先日婚約解消をし、こちらも初級文官の資格を取得したから王宮にて働くことになった。最初は上級メイドにしたら?とジュリエットの母から提案されていたようだが、本人が『人の世話向いてないから無理!』と断ったとか何とか。
「皆様、お元気でして?」
着席し、お茶を準備してもらっている最中に、フローリアは友人たちに問いかける。
「もちろん、元気だったわ。私は結婚の準備で少し学園を休みがちだけど」
「リーリャは確かに大忙しね」
「まぁ…」
言われてみれば、リーリャの顔には少し疲れが見える。
結婚の準備はかなり忙しいと聞くが、なるほど目に見えて大変そうだ、とフローリアは納得した。
「フローリアは元気……みたいね?」
「えぇ、お陰様で」
「さっきも言ったけど、顔色がとっても良いわ」
アマンダのこの言葉をきっかけに、わっと友人二人が盛り上がる。
「そうよ!婚約破棄されるだなんて、性格に問題があったのでは、とか言う人たちの目は本当に節穴だわ!」
ジュリエットのかなり強めな言葉に、リーリエもアマンダも、うんうんと頷いている。
実際、ミハエルから見たらフローリアは性格に難アリ、かもしれないのだが、自分の性格の悪さを棚に上げてよくもまぁ言ったものだ、とフローリアは苦笑いを浮かべている。
「そんなに言わなくても…」
「いいえ、言うわ!」
更にジュリエットはぐっと拳を握り、力強く言い切った。
「性格に問題があるのは殿下の方よ!」
「……」
確かに、と全員一致で頷く。
あれの性格が悪くないと思えるのは、今夢の中にいるであろうアリカくらいだと思う。
幼い頃に王家の権力を振りかざして『俺お前よりつーよい!』と言い放つダメ王子のくせに、王太子でいられ続ける理由はとてつもなく頭が良いから。
──というか、頭だけしか良いところがない。
まぁ、顔も良い方に入るのだろうが、これは人の好みもあるから何とも、というところ。
「…フローリア、ほんとよくあの人の婚約者を耐え切ったわね…」
「王家の命令なら断れない、というのもあるけれど…家のため、を思うと尚更、だったの」
こく、とお茶を一口飲んでフローリアは続けた。
「でも、家との繋がり云々さておいて、殿下の方から破棄してくださったのだから、もう関わることは無いと思っているんだけど…」
そう言った瞬間、三人の顔がひきつった。
「何言ってるのフローリア」
「え?」
「そうよ、相手はあの殿下よ?!」
「でも…自信満々に婚約破棄宣言なされていらっしゃったし…」
「何でも、今回ばかりは王妃様が助けないらしいわ!」
「……え?」
聞き間違いだろうか、とフローリアが思わず真顔になってしまうのも無理は無い。
あれだけお茶会と称した息子自慢大会を繰り広げられ、最後には自信満々に『こんなにも自慢の息子なのだから、貴女はとても幸せなのよ!』で締めくくられていた、あの悪夢のような出来事が、ひっくり返されかねないような。
これが青天の霹靂か…?と思わずフローリアは考え込んでしまった。
「ちょっとフローリア、まだ続きがあるんだから」
「えぇと」
戸惑うフローリアをよそに、友人三人組はにま、と笑う。
そういえばこの友人たちは、とてつもなくフローリアを大切にしてくれているから、フローリアを雑に扱う人に対しては容赦は一ミリもしなかった。
「さ、今日のお茶会は長いわよ!」
アマンダの声に、おー!と令嬢らしからぬ掛け声をかけたリーリエとジュリエットはにっこりとフローリアに笑いかけてくれた。
これはきっとスキャンダルの予感だ、と思ったフローリアの予感は的中することとなるのだった。
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