第11話 現実逃避


 午前七時半。

 この時間になると、多くの人は登校&出勤準備を済ませて家を出る。なのに梓は何故か私の勉強机の下にかくれんぼしていた。


「なに隠れているんですか」

「会社行きたくないよー。いろはちゃんとずっともっと一緒にいたいよー」


 なるほど。現実逃避か……。


「近年のお酒はアルコール度数が高いお酒がこんなにも多いんですね」


 現実逃避していると分かりつつも、私はそんな冗談を言う。


「酔ってないよ?」

「知ってます」


「――いろはちゃん」

「何ですか」

「私と一緒に会社行こ?」

「私は会社じゃなくて、大学に行かなきゃいけません。あ! もう行く時間だ! 急げ急げ」


 私は猛ダッシュで玄関の戸を開け、外へ出る。多分、梓は私を追いかけてくるだろう、と見越して。


「待って、いろはちゃんっー!」


 やっぱりついてきた。


「一緒に行きましょう。私は大学へ。梓お姉ちゃんは会社へ」


 私はそう告げると、梓の温かい手をぎゅっと握った。


「うん。行きたくないけど、行くよー。しょうがないなぁ……いろはちゃんの為にお姉ちゃん、頑張るよ!」

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